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私たちはローカルに向かう この世界を変えるため -Local Transition for Net-Zero Society – エネルギーの地域分散(Green Innovator Forum セッションレポート)

私たちはローカルに向かう この世界を変えるため -Local Transition for Net-Zero Society – エネルギーの地域分散(Green Innovator Forum セッションレポート)

2022年3月14日に開催されたGreen Innovator Forum。学生、若手官僚、起業家、有識者などが、グリーンイノベーションの創出に向けて議論しました。
パネルディスカッションは全5回。3回目のテーマは「Local Transition for Net-Zero Society-エネルギーの地域分散」でした。
持続可能な社会の実現には大きな方針転換と着実な変化が必要です。資源やエネルギー供給においては、地域分散型の供給源確保と循環の仕組みづくりが大切です。
まさに地域で変化を起こしているパネリスト同士で、地域分散の在り方について対話しました。

パネリスト:
磯野謙 自然電力株式会社代表取締役
山東晃大 京都大学経済研究所研究員
林志洋 長野県小布施町 総合政策推進専門官・ショクバイ株式会社代表取締役
坂野晶 一般社団法人Green innovation理事・一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事
浅見幸佑 立教大学文学部文学科文芸・思想専修1年・任意団体Blined Project代表・Green Innovator Academy1期生

長崎・長野・ブラジル…地域に根ざして

まずは、自己紹介です。

坂野晶氏

坂野:
地域での資源循環の仕組みづくりを仕事にしています。「ローカル」という単位で仕組みを転換することが大事だと思います。

山東:
京都大学経済研究所に所属しています。
取り組んでいることは2つです。
1つめは研究で、再エネによる地域経済効果を分析しています。2つめは、長崎県にある小浜で地元の人と一緒に再エネを作ることです。未利用の温泉資源を活用して地熱発電所を作っています。旅行に行ったときに小浜温泉の魅力に惚れこみ、2か月後に移住したことがきっかけでした。
発電所を作るために、地元の方に向けて説明会を開いて本音を聞くと「全く理解できない」と言われました。そこで、国や長崎県ではなく、「小浜」にどれくらいメリットがあるのかを分析し、わかりやすく伝えたいと思うようになりました。

磯野:
11年前に仲間3人で自然電力株式会社を立ち上げました。東日本大震災と原子力発電所の事故で「誰かのせいにせず、自分たちでできることをやろう」と感じたからです。また、23歳のときに世界を旅し、様々な問題を目の当たりにした時から「金儲けのためではなく、地球の未来のために働きたい」と考えていたのもあります。
パーパス(存在意義)は、「We take action for the blue planet(青い地球を未来につなぐ。)」です。私たちだけでは地球の課題を解決することはできないので、「世界中の仲間と一緒に課題を解決していくこと」が大切だと思います。
また、「画一的なグローバル化ではなく、世界中のローカルをつなぐ」という言葉も含めました。東南アジアの国々やブラジルなど8、9カ国で事業を行っています。

林:
長野県の小布施町で、環境政策に取り組んでいます。最近は環境政策以外にも取り組みたくなり、行政のデジタル化や関係人口作りも行っています。
元々、環境に関心があったわけではありません。新卒で戦略コンサルティング会社に入ったのですが、東京でビジネスばかりやっていても面白くないと感じました。そして、縁があり小布施町の政策作りに関わるようになりました。住民の方々と一緒に環境政策を作っていたら、実際にやりたくなってしまいました。そして、2年前に移住しました。
小布施町は、長野県で(面積が)一番小さい町。また、外から来た人を受け入れながらまちづくりに取り組んできました。そのため、先進事例を作るのに適した環境だと思います。

浅見:
立教大学文学部文学科文芸・思想専修の1年生です。
教育や人とつながるコンテンツ制作、哲学対話に関心があります。「対話」に価値を感じます。若者の視点で話していきたいです。

「究極のローカルは個人だ」

「ローカル」と聞くと何を思い浮かべますか。
 登壇者それぞれ、長崎県や長野県、そしてブラジルなど様々な地域で気候変動対策に取り組んでいます。ローカルで課題に取り組む理由を語り合いました。

山東晃大氏

坂野:
ローカルで、気候変動対策やエネルギーの転換といった課題に取り組む意義は何ですか。

山東:
私の考えるローカルは「地方」です。小浜温泉周辺の農家や漁師は、気候変動の影響を直接受けています。ですので、地方に住む方々と行動を起こすことで、全国に取り組みが広がっていくのではないかと考えています。

磯野:
グローバルな課題はローカルからしか見えません。つまり、地球規模の課題を解決するためには、ローカルでアクションをとるしかないんです。

林:
磯野さんの考えに賛同します。
最近は「2050年までに脱炭素を実現する、ゼロカーボンシティ宣言」が多くのまちで広がっています。地域で脱炭素を達成する難しさを本当に理解している人はどれくらいいるでしょうか。データを用いて達成の道筋を考える人がもっと必要ではないか。そう考えて、小布施町に飛び込みました。

坂野:
そうですよね、私も共感します。
例えば、プラスチックの消費量の削減についてです。大企業もペットボトルをやめようと議論しています。地域の中では、瓶で代替できるかもしれません。でも、瓶の輸送距離が長いほどCO2の排出量が多くなってしまいます。なので全国規模で実施するのは難しい。本当の解決策は何かを、小さな枠と大きな枠の両方で考えることが大切です。
ローカルの定義は難しいですよね。ローカルと聞くと何を考えますか。

浅見:
皆さんそれぞれに、ローカルの定義があると皆さんの話を聞いていて感じました。個人的にローカルには、「個人」や「実践」というイメージがあります。

坂野:
磯野さんが、控室で「究極のローカルは個人だ」と言っていました。「自分ができることを考える」ことが変化の入り口だと思います。一人ではできない変化がありますよね。そんなときに、周りを巻き込んで変化を起こすのだと思います。

住民と信頼づくり 思いを共有

ローカルではどんな役割が必要とされているのでしょうか。磯野氏と山東氏が地域で果たしている役割を語りました。

磯野謙氏

坂野:
皆さんは「ローカル」でどんな役割を担っていますか。

磯野:
会社を設立したときは、太陽光や風力、水力が利用できる土地を探しに行き、日本に浸透していなかった再エネを拡大させていく役割を担っていました。
現在は、世界中の地域に根ざした企業に私たちの経験やノウハウを伝え、課題解決を加速させていく役割を担っています。

坂野:
現地の大企業ではなく、ローカルな企業とパートナーを組むのはなぜですか。

磯野:
現地で馴染みのない会社は、地元住民に信用してもらえません。信用を得るためには、その土地で信頼されているローカルな企業とパートナーを組むことが大切だと思います。信頼を担保してもらうことで私たちは技術やノウハウを教えることができ、課題解決へと着実に進んでいくことができます。

山東:
小浜での活動と、大学での研究の役割は共通しています。「可視化」です。
まず、研究について。再エネが地域にもたらす効果は分かりにくいです。それを数字やイメージ図で表すことによって、地域の人の選択肢を増やしたいと考えています。
次に地域について。漁師、農家、旅館経営者、それぞれ思っていることを飲み会では僕に教えてくれるのに、会議では話しづらいのか話してくれません。雑談を通して知った地域の魅力や、地元の方がお互いに思っていることを共有することによって、「まちの未来を一緒に考える」ことが役割です。

ごみ箱 一緒にひっくり返して…

 Green Innovator Academyが始まってから半年。1期生の浅見氏は、プログラムを通して考え方に変化があったようです。そんな浅見氏から飛び出した林氏への質問とは…

林志洋氏

坂野:
Green Innovator Academyのプログラムが始まってから半年が経ちましたが、自分の考えに変化はありましたか。

浅見:
どうしても理論的に考えたくなってしまうところがあります。でも、変化を起こすときに重要なのは、現場に行って動いてみることだと気付きました。特に、登壇されている方々から感じます。
皆さんがローカルで働くことを選んだのはなぜですか。

林:
ローカルだから見えることがあるからです。
住んでいるまちの二酸化炭素がどこから排出されているか知っていますか。小布施町は、3割が移動。あとの3割が電力。25%は、灯油などの化石燃料。残りの15%はごみです。排出されるCO2を減らすためには、車を使わないようにする。またはEV車に転換していくことが必要になります。ではEVチャージャーをどこに置こうか。どんどん具体的な話になっていきます。
まちのデータをもとに、的確に着実に課題を解決していけるところがローカルで動く良いところだと思います。

坂野:
そうですよね。私も小布施町のごみの政策のお手伝いをしています。ごみもどんなものが入っているか成分分析するところから始まります。

林:
一緒にごみ袋をひっくり返しましたね。

坂野:
小布施だから栗が多いなとか、たくさん捨てられた栗皮を活かすことはできないかな、と考えるようになります。

林:
アイデアの種になりますよね。
磯野さんや山東さんと違って、私は環境の専門家ではありません。専門家の知見を聞きながら、アイデアを出していくのが役割だと思っています。

議論ではなく 実行する人を

 ローカルで感じる課題について話し合いました。すると課題意識は共通していて…

坂野:
ローカルで変化を起こしていくときに、一番の課題は何だと感じていますか。

林:
グリーンイノベーター=実行力のある人が足りていません。戦略を考えることや国レベルで議論することが大好きですよね。本当に必要なのは、ごみの組成調査やまちの人との会話などを通して課題を見つけ、それを実行する人だと思います。

坂野:とても共感しますね。

山東:
小浜でも実感します。人手が足りません。Green Innovator Academyは2030年までに1000人のイノベーターを育成するプロジェクト。1000人が全国に広がれば、変革は起きていくのではないでしょうか。
また、「経済効果の可視化」も足りていません。
小浜温泉のある雲仙市では、年間エネルギー消費額が約100億円。そのうちの半分の50億円が電力です。燃料は輸入しているので、九州電力を通して50億円が海外に出ていってしまうのです。小浜にある資源=未利用の温泉を使って、地熱発電をすることによって、地域でお金を循環させることができます。地域へのメリットを可視化し、住民の方にわかりやすく提示することが大切です。「地域にメリットがある」としっかり認識してもらうことによって、積極的な再エネ導入が進んでいくと思うからです。

磯野:
エネルギーから排出されるCO2を削減するには、洋上風力や地熱、太陽光といった発電所を建設することが大切です。東京に発電所を置く場所はないので、地方に発電所を建てます。だからエネルギーの問題は、地方に向き合うことが重要になります。上手くいかないことも多く、「めんどくさい」「やりたくない」と思う人も多いかもしれないですが、それではダメですよね。

林:
意外と楽しいと思います。
私は、地元のお祭りの準備で来週の3連休が2日間潰れるんです。でも、地元の人との雑談から見えてくることがたくさんあるので楽しいです。

磯野:
「ローカルを通してでしかグローバルは見えない」というのはそういうことですよね。

豊富な資源を生かす 対話が大切

 ディスカッションを聞いていたGreen Innovator Academy1期生から沢山手が挙がり、質疑応答を行いました。

Green Innovator Academy1期生:
日本は資源小国であるという認識が広まっています。しかし、日本は自然資源が豊富な国だと考えます。自然資源を上手く活用できれば、日本は脱炭素を達成できると思います。どう考えますか。

山東:
資源が豊富なので十分可能だと思います。まだまだ課題はありますが、長い目で見れば達成できると考えます。

Green Innovator Academy1期生:
地方の現場で働く際には、住民の方との対話が大切ですよね。気を付けていることはありますか。

林:
相手のことを知ろうとする過程で、自分のことも知ってもらうことが大切ではないでしょうか。私は、カタカナ語を使いすぎてしまったり、論理的に話したりしてしまう癖があります。だから話がわかりづらいだろうと思います。でも大事なのは、ありのままの自分で対話すること。そういった私の悪いところも理解してもらいながら、楽しく対話をしています。

山東:
最初からエネルギーの話をしないこと。再エネの話をいきなりしたら難しいですよね。なので、まずは地域の人の考えを聞くことから始めます。小浜をどうしたらよいか、そのための課題は何か、といったことです。人口2300人のまちですが、130人に話を聞きました。話を聞いているうちに、まちをより良くするための手段の一つとして、「エネルギー」が自然と浮き上がってくるんです。

1人の住民として 多様な意見とともに

 最後に感想です。

浅見幸佑氏

浅見:
地域に行って、課題を見つけて実践することは大切だと実感しました。

坂野:
それぞれの得意分野や既に担っている役割を最大限に活かすことも大切です。さらには、そういった枠を超えて動いてみることも大事だと思います。でも、いきなり今まで取り組んだことのないことに挑戦するのは大変ですよね。そんなときに、ローカルという少し小さな単位で動いてみると良いかもしれません。

林:
1つメッセージがあります。それは「固執しない」こと。
「環境に固執しない」ということも1つです。「環境問題を解決しよう」と思いすぎると、見えなくなることがたくさんあります。1人の人間・住民としてまちづくりに関わってみてください。私は、テントサウナをやりました。
「自分の意見に固執しない」のも大事です。まちづくりと会社経営の大きな違いを考えてみました。会社は、社長が作ったビジョンに賛同する人が社員やユーザーになりますよね。一方で、まちは住んでいる人が選べるわけではありません。だから多様な意見があって当然です。それを1つにすることは無理だと思います。みんなの意見が重なる部分はどこなのかを考えることが大切です。

磯野:
「Be the change」というガンジーが言ったとされる言葉があります。「人のせいにしない 」という意味だと思います。やらない理由は色々考えることができます。でも、大切なのは行動すること。世界中にはみなさんのようにアクションを起こしている人がたくさんいます。そういった人たちのつながりはどんどん生まれていくのです。

山東:
まずは、行動してください。新しく学べる課題や手段、知識があります。一緒にやりましょう。

坂野:
「ローカル」には色んな定義があると思います。あえてこのセッションでは定義していません。
1人ではできないことをやることによって、どんな変化を起こすことができるのか。1企業や1団体ではできないと思っていることも、ローカルで考えてみるとできることもあるのではないかと思います。このセッションが何かヒントになれば嬉しいです。

 

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