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【専門家インタビュー】 東海大学 海洋学部 教授 荒井 晃作氏

【専門家インタビュー】 東海大学 海洋学部 教授 荒井 晃作氏

次世代のグリーンイノベーターに向けて、第一線で挑戦を続けるプロフェッショナルに話を聞くインタビューシリーズです。環境・気候変動をめぐる課題解決の最前線において、どのような実践や思考が積み重ねられているのか。その歩みを通じて、キャリアや研究のあり方を探ります。

第3回は、海洋地質学を専門とし、レアアース泥を含む海底鉱物資源の賦存量の調査・分析などを行い、洋上風力開発にも不可欠な海底地質の研究を行う荒井 晃作氏にお話を伺いました。


PROFILE
荒井 晃作(Arai Kohsaku)氏 ※写真左
東海大学 海洋学部 / 海洋理工学科 海洋理工学専攻 教授
独立行政法人産業技術総合研究所 地質情報研究部門 副研究部門長(取材当時)
内閣府の行う戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期 革新的深海調査技術では、レアアース泥を含む海底鉱物資源の賦存量の調査・分析のテーマリーダーを務めた。


<仕事について>

― これまでどのような経緯で地学の道に進まれ、産総研に至ったのでしょうか。

私はもともと金沢大学理学部の地学科を卒業しました。その後、同大学で修士号・博士号を取得し、研究生を経て産業技術総合研究所(産総研)に入りました。

実は、日本では海の調査について専門的に学べる大学はそれほど多くなく、調査船を保有している大学も限られています。私自身も、博士課程を修了するまでは本格的な海洋調査には携わっておらず、産総研に入ってから本格的に海洋地質調査を始めました。

― なぜ海洋地質に関心を持たれるようになったのでしょうか。

修士課程に在籍していた頃、アルバイトとして当時の工業技術院地質調査所(現在の産総研)に関わる機会がありました。その際、日本海を調査する約1か月間の航海に参加したことが、初めて長期間船に乗った経験でした。

その後、博士号を取得してから産総研の燃料資源部でポスドク研究員をしていたのですが、その頃、アメリカの掘削船「ジョイデス・レゾリューション」に乗船し、約2か月間、バハマの炭酸塩プラットフォームを対象とした研究に携わりました。こうした経験を通じて、本格的に海洋研究の道へ進むようになりました。

― その乗船研究を通じて関心を持たれたのですね。具体的には、どうような点に海洋地質の面白さを感じ、専門にしようと思われたのでしょうか。

私は、地質調査とは「見えないものを見えるようにする調査」だと考えています。

本来であれば、舗装や植生をすべて取り除かなければ見えない地下の構造や地層の成り立ちを、調査によって可視化し、予測できるようになる。その点に最も大きな面白さを感じています。さらに、そこから地下の物質の分布や活断層の評価などにもつながっていくことも、大きな魅力です。

もう少し踏み込むと、日本は海に囲まれた島国であり、その地質はプレートの沈み込みによって形成されています。一方で、地震や火山、津波といった自然災害のリスクも、海を起点として発生しています。

さらに言えば、洋上風力をはじめとする海洋利用を通じて「海を使った日本国としてのあるべき姿」が見えてくるのではないかと考えています。

― 「海を使った日本のあるべき姿」とは、具体的にどのようなものを想定されているのでしょうか。

私が考える海域利用には、潮流発電や洋上風力といった再生可能エネルギーに加え、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)や地層処分なども含まれます。今後、日本が海域を活用していく上では、こうした取り組みが重要になってくると考えています。

地質を知ることで、日本の災害リスクも見えるし、あるべき未来も海底から見えてくる。そうした思いを持ちながら、地質調査に携わっています。

― 「リスクも未来も海底から見える」という表現が印象的ですね。地学に関心を持つ人も増えそうです。

ありがとうございます。2026年4月からは東海大学海洋学部に移る予定です(※取材時点では産総研に所属)。これからは教育の現場でも、ぜひ多くの学生に海や地学に興味を持ってもらえたら嬉しいですね。

東海大学に移った後も、研究の軸自体は大きく変わらない予定ですが、新たに資源・エネルギー・鉱物資源といった分野にも取り組んでいきたいと考えています。

日本の将来は、海にかかっている部分が非常に大きい。そのように感じています。

 

<洋上風力発電開発における海底の壁>

― 欧州では既に洋上風力発電の導入が進んでいますが、日本との違いをどのようにみられていますか。

ご存知の通り、日本では2030年、2040年、2050年に向けた設備容量の目標が設定され、それに基づいて案件形成が進められています。特に浮体式洋上風力発電については、2040年までに15GW規模の案件形成を目指す方針が示されています。そのため、2040年頃までを見据えると、日本では相当量の浮体式洋上風力が導入されることになるだろうと考えています。

その背景には、日本と北海沿岸地域との地形・地質条件の違いがあります。日本周辺の海域は水深が急激に深くなるため、比較的浅い海域が広がる北海とは前提条件が大きく異なります。

また、洋上風力発電事業のライフサイクルという観点でも、欧州はすでに次のフェーズに入りつつあります。北海では、導入が早かった洋上風力設備がリプレースの時期を迎え始めています。着床式洋上風力では、海底に基礎を設置するため、更新時には既存設備の撤去やリサイクル、新たな大型設備への置き換えといった課題が生じます。現在、日本は案件形成を本格化させている段階ですが、ある意味では欧州より一周遅れた立場にあるとも言えるでしょう。

― ご専門は地質学とのことですが、どのような形で洋上風力発電と関わるのでしょうか。

大きく関係するのは、海底で発生するさまざまなイベントです。

例えば、海底堆積物のコアを見ると、黒っぽい層の中に白っぽい層が挟まっていることがあります。通常は黒っぽい堆積物が堆積する環境であっても、浅い場所から大量の土砂が流れ込むイベントが発生すると、その痕跡が異なる色の層として残ります。そのイベント堆積物の上下の年代を測定することで、「いつ発生したイベントなのか」を推定できます。例えば、「この地域では過去1000年間に3回、大規模な海底イベントが起きている」といったことが分かるようになります。

これは言い換えれば、数百年に一度程度の頻度で海底イベントが発生する可能性があることを意味します。もちろん確率論ではありますが、日本周辺ではプレートの沈み込みに伴ってひずみが蓄積・解放されるため、地震や海底地すべりなどの発生リスクを無視することはできません。

一生のうちには起きないだろう、と考える人もいるかもしれません。しかし、洋上風力発電設備の耐用年数は約30年とされており、その期間中に数十年〜数百年スケールのイベントが重なる可能性は十分に考慮する必要があります。そのため、地質学的な観点からは、リスク評価を行った上で、崩壊しやすい斜面を避けて海底ケーブルを配置するなどの設計が重要になると考えています。

これも地質学の重要な役割なのです。

― 「海底イベント」とは、具体的にはどのような現象を指すのでしょうか。

代表的なものとしては、混濁流(こんだくりゅう)が挙げられます。

先ほど地震の話をしましたが、最近では豪雨による影響も注目されています。ゲリラ豪雨などが発生すると、河川から大量の泥が海へ流れ込みます。テレビなどで、海が濁っている様子を見たことがある方も多いと思います。この泥は通常の海水より密度が高いため、海底付近を流れることがあります。そして、ある程度まとまると、海底を高速で流下する混濁流となります。

つまり、陸上で土砂災害が起きるのと同じように、海底でも土砂災害が発生しているのです。そして、この混濁流が海底ケーブルの上を通過すると、ケーブルを損傷・切断してしまう可能性があります。

そのため、洋上風力発電で使用する送電ケーブルをどこに敷設するかは非常に重要です。地震だけでなく、混濁流のような海底イベントも考慮した設計が求められています。

― 海底にも土砂災害がある、という視点は、陸上で生活しているとあまり意識しませんね。

なかなか実感しにくいですよね。

ただ、例えば駿河湾や富山湾のように、急峻な地形によって形成された海底谷が存在する海域では、こうしたイベントは起きるものだと考えた方がよいと思います。能登半島地震のような大きな地震が起きた際にも、海底ではさまざまな地形変化が発生している可能性があります。

― 現在の通信ケーブルなどでは、こうした海底イベントが起こりやすい場所は避けているのでしょうか。

完全に避け切れているかというと、必ずしもそうではない印象があります。

通信ケーブルの場合は複数系統が敷設されているケースも多いため、重要な接続地点さえ守られていれば、一定の冗長性が確保されています。

一方、洋上風力発電で使用される送電ケーブルは、大容量化に伴って太く大型化するため、多重化には限界があります。そのため、海底イベントに伴うリスクがより重要な検討事項になる可能性があります。

ただし、ケーブルが太いということは、逆に混濁流などの影響を受けても損傷しにくい可能性もあります。どのようなリスクを想定し、どのような思想で設計するかは、工学的な検討と密接に関わってくると思います。

― こうした海底ケーブルの状態をモニタリングすることは可能なのでしょうか。

可能です。例えば、音波を用いたイメージングソナーによって、水中インフラの状態を継続的に監視する技術があります。

洋上風力発電では、着床式の基礎周辺で海底表面の砂が削られる「洗掘(せんくつ)」や、逆に砂が堆積する現象も起こります。そのため、砂の動きを継続的に監視することは非常に重要だと考えています。

海外では、特に北欧を中心に、こうしたモニタリング技術の活用が進みつつあります。

― 日本の海域特有の難しさには、どのようなものがありますか。

日本では、海底ケーブルは基本的に数メートル埋設する方向で検討されています。砂地であれば比較的施工しやすい一方、岩盤地帯では掘削が必要になるなど、日本特有の複雑な地質条件による難しさがあります。

こうした地質条件を踏まえたインフラ設計と監視体制の構築が、今後ますます重要になっていくと思います。

 

<地質調査と原子力、漁業との共生>

― 浮体式洋上風力発電が注目される以前から、海底地質調査は長年行われてきました。これまでは、どのように活用されてきたのでしょうか。

私たちが1970年代から継続してきた海底地質調査のデータは、これまで主に原子力発電所や火力発電所周辺における断層調査や活動度評価などに活用されてきました。

例えば、活断層は長さが長いほど、大規模な地震を引き起こす可能性が高くなるとされています。そのため、陸上から海域へ連続する断層がどの程度の長さを持ち、どのような形状をしているのかを把握することは、非常に重要です。

特に沿岸部に建設される原子力発電所では、沖合側まで含めた断層調査が必要になります。原発直下の断層が海域へどのようにつながっているのか、その形状や長さに加え、圧縮によって形成された断層なのか、引張によって形成された断層なのかといった点まで確認する必要があります。

―圧縮による断層と引張による断層では、どのような違いがあるのでしょうか。

日本周辺ではプレートが沈み込んでいるため、基本的には圧縮によって形成される「逆断層」が多く見られます。一方で、沈み込みの影響によって局所的に地盤が引き伸ばされる現象も起きるため、引張による「正断層」も形成されます。

リスクという観点で見ると、圧縮応力による断層運動の方が大きなエネルギーを蓄積しやすいため、一般的には逆断層の方が危険度は高いとされています。ただし、正断層や横ずれ断層のリスクが低いというわけではなく、それぞれに異なる危険性があります。

― 長年蓄積されてきた海底地質図が、浮体式洋上風力発電の登場によって、新たな形で活用され始めているのですね。

浮体式洋上風力発電が本格化してくると、海底地質データの活用のされ方も大きく変わってくると思います。

もちろん、私たちとしても協力していきたいと考えていますが、一方で、これまで取得してきたデータは、いわゆる工学設計を目的としたものではありません。主に堆積物やその流れ方などを対象としてきたため、そのギャップをどう埋めていくかが今後の課題になると思います。

これまでは、原発や発電所周辺における海底断層の有無や活動度、褶曲(しゅうきょく)が現在も進行しているかどうかといった観点で、データが活用されてきました。

ただ、地質図というものは、ある程度専門知識がないと、単なる色分けされた図面のようにも見えてしまいます。多くの理工系分野では物理学や化学が中心となるため、地学的情報を読み解き、活用するためのリテラシーにはまだ課題があると感じています。

― 地質調査で用いられるイメージングソナーは、他にはどのような用途で活用できるのでしょうか。

一次産業への応用も、その一つです。

海洋調査では、「海の中をイメージングする」ことが非常に重要になります。例えば、洋上風力発電などの海洋構造物は、設置して終わりではありません。先ほどお話しした洗掘のリスクや、基礎部分の状態などを継続的に確認していく必要があります。そのため、主に音波を用いた調査が行われます。

海中では光が届きにくいため、海底調査では基本的に音を使います。高周波の音は反射しやすく、対象物の形状把握に向いています。一方で、低周波の音は地中へ浸透しやすいため、海底下の地質構造を調べる際に利用されます。地質調査では、比較的低周波の音を用いて海底面下を調査することが多いですね。

特にイメージングソナーは非常に興味深い技術です。海中をセンシングしていると、大きな魚が泳いでいる様子なども確認できます。

例えば、洋上風力発電と養殖漁業を組み合わせる場合、こうしたセンサーを活用することで、魚の健康状態や摂餌状況などをオンラインで把握できる可能性があります。

洋上風力発電を、こうした技術と組み合わせながら進めていくことも重要ではないかと考えています。日本の漁業全体を見ても、こうした技術を活用しながら、養殖への転換を進めていく方向性は有効なのではないでしょうか。欧州では、もともと日本ほど漁業文化が強くなかったこともあり、養殖を含めた新しい海洋利用の形が広がっています。そうしたあり方も、日本にとって参考になる部分があると感じています。

 

<読者へのメッセージ>

― 序盤で「日本の将来は海にかかっている」というお話がありました。私自身も、大きなポテンシャルを持つ海を日本がどう活用していくのかは、非常に重要な論点だと感じています。そのうえで、今後、洋上風力発電を含む海洋開発はどのようにあるべきだとお考えでしょうか。

洋上分野に関わる人たちには、これから本当に多くの課題が待っていると思います。

もちろん経験も重要ですが、最終的には「人」がどれだけ知恵を出し合い、連携できるかが大切になります。一方で、人が担わなくてもよい部分については、ロボットやセンシング技術を積極的に活用していくべきだと思います。

特に、センシングロボットの技術は今後さらに発展していくでしょう。その中で重要なのは、地質調査を行う私たちが、ロボティクスやセンシング技術に携わる人たちに対して、「何を取得すべきか」という情報を適切に伝えていくことです。どういったデータが必要なのかを共有しながら、分野横断的な情報交換のハブをつくっていかなければならないと感じています。

「自分たちは地質だけを扱う」「自分たちは風車だけを扱う」といった形ではなく、それぞれの専門分野がつながりながら海洋開発を進めていくことが重要なのではないでしょうか。

― 最後に、これからの学生に伝えたいことはありますか。

まずは、自分が本当にやりたいことを大切にしてほしいですね。楽しめなければ、研究も続かないと思います。

私は、船に一緒に乗る学生たちによく「まずは楽しんでほしい」と伝えています。そのためには、「今、何が行われているのか」を自分の目で見て、分からないことは積極的に聞いてほしいと思っています。学生が黙ってしまうと、私たちも伝えられることを十分に伝えきれません。

研究者たちがなぜ集まり、多くの職員が乗船し、一つの航海を組み立てているのか。その中で何が行われているのかを知ろうとすることが、研究の面白さにつながるのだと思います。

ぜひ、そうした現場に飛び込んで、自分自身の目で見て、感じてほしいですね。

―本日は貴重なお話ありがとうございました!

 

<インタビュー後記>

洋上風力発電というと、風況や海象条件に注目が集まりがちです。しかし今回のインタビューを通じて、その基盤となる「海底」を理解することの重要性を強く実感しました。洗掘や混濁流といった海底イベントは、普段陸上で生活しているだけではなかなか意識することがありません。しかし実際には、海底地質や海底地形が、洋上風力発電の安全性やインフラ設計に大きく関わっていることを学びました。また、荒井先生のお話からは、洋上風力発電の社会実装には、風車だけを見るのではなく、地質・工学・センシング・ロボティクスなど、多様な専門分野が連携していくことの重要性も感じました。私自身、現在は洋上風力発電の解析を修士研究のテーマとしています。今回のインタビューを通じて、洋上風力発電を支えているのは、風だけではなく、その土台となる海底地質や海洋環境そのものであることを改めて実感しました。海をどう理解し、どう活用していくのか。洋上風力発電をはじめとする海洋開発の可能性を考えるうえで、そうした視点の重要性を強く感じています。改めて、貴重な機会をいただき、心より感謝申し上げます。(GIA2期 井野嵩才)

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