
Green Innovator Academy(以下GIA)は、未来を自らより良く変えようとするイノベーターを育成するという目的のもと、2021年に開講しました。5年目の2025年度は、5期生として社会人は企業の若手リーダー、省庁自治体職員などが約50名参加しました。(また並行して大学生を対象としてもプログラムが実施されています)
今回は、GIA社会人5期生で株式会社日立製作所 研究開発グループ 所属の木村 祥太さんに参加後のインタビューを行いました。
PROFILE
木村 祥太(きむら しょうた)氏
所属:株式会社日立製作所 研究開発グループ
2014年入社。入社後は建設機械の省エネ、生産性向上に関する仕事に携わる。2017年より、鉄道運行シミュレーターの開発や省エネ列車制御技術の開発に従事。
私は鉄道の車両・信号・電力設備の挙動を精緻に再現し、路線内で走行する列車の速度や消費電力量を評価するシミュレーターの開発を担当しています。また、そのシミュレーターを基盤に、より少ないエネルギーで列車を運行するための制御技術も研究しています。
もともと学生時代から省エネ分野が好きで、大学ではエコカー、会社では鉄道分野で省エネ関連の研究に取り組んでいました。鉄道のGXに貢献しているという自負はあったものの、近年の気候災害の深刻化を見るにつれ、「鉄道の省エネ化だけで十分なのか」という危機感も芽生えていました。そんな折にGIAのお話をいただき、GXを体系的に学び視野を広げる絶好の機会だと感じ、参加を決めました。
特に印象に残ったのは、前田氏の「大局を捉える」と有馬氏の「地球温暖化をめぐる国際情勢」です。前田氏の講義では、脱炭素には潮流の波があり、たとえ2025年が“凪”であっても、次の波を確実に捉えるための準備を怠らないことの重要性を学びました。
一方、有馬氏の講義では、脱炭素目標が達成されない可能性を見据え、甚大な環境変化への“適応”が国際的に語られている現実に衝撃を受けました。適応は時に脱炭素への諦観と誤解されがちで、推進には難しさがありますが、備えなければ社会的リスクは計り知れない。GXの本質的な難しさを痛感した学びでした。
普段の研究でも未来の鉄道の姿を構想し新技術を提案する活動をしているため、「新しいことを考える」ことには一定の慣れがありました。しかし、せっかくGIAに来たのだから同じ枠内で考えては成長にならないと感じ、あえて知識ゼロの“海”分野の事業構想に挑戦しました。まったくの未経験領域で迷うことばかりでしたが、海洋に詳しい受講生や講師の方々と何度も壁打ちし、多面的な視点をもらいながらアイデアを磨き続けました。結果、自社の強みも織り交ぜつつ、自分自身が心からわくわくできる提案に昇華させることができました。他者の視点からの刺激の大きさ、自社リソースの再発見など、多くの学びを得た時間でした。

福島第一原発と大熊町の視察は、これまでの価値観を大きく揺さぶる体験でした。現地へ近づくにつれ上昇していく線量、損壊した建屋の生々しい姿を目の当たりにすると、事故直後から今日まで復旧に携わってきた方々への尊敬と感謝の思いが自然と込み上げてきました。同時に、「二度と事故を起こさないために原発を高度化すべきなのか」「重大事故のリスクがあるものは使うべきでないのか」という相反する考えが自分の中でせめぎ合い、簡単に答えの出せる問いではないことを痛感しました。
しかし、この“答えのない問い”を抱え続けることこそ、GXを考える上で避けて通れない姿勢なのだとも感じました。現実を直視し、自分なりに向き合い続ける覚悟を得られた、非常に濃いフィールドワークでした。

特に心に残っているのは、講師の有村さんと交わした「新規事業をやる理由」に関する会話です。新規事業立案コースでは「原体験からその事業をやる理由を語れ」と問われ続けてきました。しかし、自分の案はプライベートにも業務にも関わりがなく、原体験がないことに悩んでいました。そんな折、懇親会で思い切って相談すると、有村さんが自身の事業に取り組む理由は「面白そうだったから」というシンプルなものでした。
その言葉に肩の力が抜け、原体験という堅い枠に囚われていたことに気づかされました。結局は、自分が心から面白いと思い、主体的に取り組めるかどうか。それこそが事業を前に進める原動力になるのだと実感しました。この気づきによって、提案に自信を持ち、前向きに踏み出すことができました。
今回のプログラムを通じて、世界のGXの潮流、脱炭素と経済成長を両立させる取り組み、ルールメイキングの重要性など、多様な角度からGXを学ぶことができました。まずは自分が関わる鉄道分野において、これらの学びをどう活かし価値創出につなげられるか、具体的なアクションを考えているところです。
また、新規事業創生では、小さな検証サイクルを高速で回すことの効果、そして発信することで異分野の人とつながり新たな視点を得られることを強く実感しました。今後は、自部署や社内の仲間にもこれらの「学び方・進め方そのもの」を共有し、共創の輪を広げていきたいと考えています。
私が目指すイノベーターは、「専門性を軸にしつつ、分野の境界を越えて課題に挑む人」です。鉄道分野の省エネ技術に携わってきましたが、GIAでの学びや多様な仲間との対話を通じ、地球温暖化のような強大な問題は一つの領域だけでは解消できないと痛感しました。だからこそ、自分の専門を起点に他分野とつながり、新たな価値を共創できる存在になりたいと考えています。また、GXの議論が困難な時代であっても、次の世代が「この社会に生まれてよかった」と思えるような未来をつくるために、楽しさやわくわく感を原動力に、一歩踏み出せる人でありたいと思っています。
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