
脱炭素社会の実現を牽引する次世代のイノベーター育成プログラム、「Green Innovator Academy」。これまで国内外より選抜された大学生・大学院生および企業、官公庁や自治体の職員など500名以上が参加し、グリーントランスフォーメーション(GX)に関する最先端の知識やイノベーション創出に向けた手法を学んできました。第5期目となる今年は2025年9月に開講、学生プログラムではASEAN地域最大のユース組織である「Asean Youth Organisation」と香港で若者の環境教育に取り組んできた「Wofoo Leaders’ Network」と連携し、多様な文化背景を持つ同世代との対話やアジア各国が抱える環境課題の解決の探求を通じて、分野・世代・国境を越えたGX推進力を養います。
本記事では、サーキュラーエコノミーをテーマとした、香港でのフィールドワークの様子を紹介します。
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初日には、オリエンテーションが開催され、国を越えて初めて直接顔を合わせるチームメイトたちが対面しました。お互いを知るためのアイスブレイクや、フィールドワーク全体の目的やテーマに関する概要説明が行われ、参加者はこれから始まるプログラムへの理解を深めました。

(オリエンテーション前に緊張を解く為にも行われたアイスブレイクの様子)
その後、今回の宿泊先であるMei Ho House(メイ・ホウ・ハウス)を見学しました。Mei Ho Houseは、香港の深水埗(Sham Shui Po)地区に位置する歴史的建造物であり、1950年代の公共住宅「H型棟(H-block)」として建設されました。現在はユネスコアジア太平洋文化遺産保全賞(UNESCO Asia-Pacific Heritage Award)を受賞しており、香港初期の公共住宅政策やコミュニティ生活の歴史を知る機会となりました。当時の生活様式を再現した展示や、地域の歴史を紹介する博物館が併設されており、香港の社会発展と地域再生の現状を知るフィールドワーク初日となりました。
2日目は、シャトルバスでMilMill Drink Carton Recycling Plant(Tetra Pak)を訪問し、リサイクルプラントツアーに参加しました。香港のように国土が比較的限られた地域でどのようにリサイクルが実施されているのか、その現状や課題について詳しくご説明いただきました。特に、廃棄物の分別や処理方法が国家政策やルールメイキングと深く関わる複雑な問題であること、また実際にリサイクルとして回収されたごみがどのような工程を経て再資源化されるのかについて、現場見学を通して理解を深めることができました。

(職員の方からリサイクルの現状について講義を受ける学生たち)

(実際にリサイクルセンターの内部を見学した学生たちの様子)
その後は、紙の再利用繊維を用いてリサイクルペーパーを作成するワークショップを体験しました。スタッフの方が丁寧に工程を解説してくださいましたが、実際に体験してみると、紙の厚さや質感を均一に仕上げることが意外に難しく、リサイクル工程の繊細さを実感しました。実際のリサイクル紙づくりを自ら体験することで、資源循環の重要性と現場での工夫の大切さを改めて学ぶ貴重な機会となりました。

(リサイクルペーパー作りのワークショップの様子)
午後は移動してEcoParkへ。
EcoParkは、香港政府環境保護署(EPD)が運営する環境教育とリサイクル推進のための施設です。サーキュラーエコノミーの実現を目的に設立され、再資源化の取り組みや環境産業の発展を支えています。館内には体験型の展示やゲーム、埋立地を再現した展示室などがあり、視覚的にごみ問題やリサイクルの仕組みを学ぶことができます。職員の方の案内のもと、香港におけるリサイクル政策の現状や課題について理解を深めました。

(本物のゴミに見えるとてもリアルな埋立地を催した部屋での集合写真)
さらにDX Design Hubへ。
この施設は、デジタル技術とデザイン思考を融合し、スマートシティや環境データの可視化など多様なテーマでDXを推進しています。ビル全体が展示エリアとなっており、AIやIoTなど最新のテクノロジーを通して、デジタル変革とサステナビリティの関係を学びました。職員の方々の解説を受けながら各階を見学し、技術革新が持続可能な社会づくりにどのように貢献できるかを考える機会となりました。

(DX Hubの職員の方によるツアー中の様子)
リサイクルの現状や取り組みを、実際の現場で見学し、職員の方々の解説や体験を通して学ぶことができた、非常に内容の濃い一日となりました。
3日目はGaau1Upの見学からスタート。
Gaau1Upは、香港を拠点にプラスチックのアップサイクルを行うスタートアップ企業で、デザインと環境技術を融合し、廃棄プラスチックを新たな製品へと生まれ変わらせる取り組みを行っています。これまでに、学校や地域イベントと連携してワークショップを開催し、若者に対する環境教育にも力を入れています。

(Gaau!Upのかたから講義を受ける学生たち)
その後、参加者は2グループに分かれ、2つのワークショップを交代で体験しました。
1つ目は、自転車を利用してプラスチックを粉砕するワークショップです。自転車のペダルを漕ぐことでギアが回転し、プラスチックを細かく砕く仕組みになっており、循環の仕組みを身体的に体感できる内容でした。

(自転車を利用しプラスティックを粉砕するワークショップの様子)
もう1つのワークショップでは、色とりどりのリサイクルプラスチックを熱で溶かし、コマやカラビナを作りました。参加者は好きな形を選び、溶かした素材を型に流し込む工程を体験。完成するまでどんな色合いになるかわからないため、楽しみと驚きが混ざる、創造的で魅力的な活動となりました。

(熱でプラスティックを溶かし、こまやカラビナを作るワークショップの様子)
午後は、実際に香港で活躍する若手起業家の方々から、オンラインで講義の時間をいただきました。
登壇した起業家の皆さんからは、それぞれの事業の概要や実績に加え、起業に至るまでの経験、そして香港においてサーキュラーエコノミーの文脈でビジネスを展開する際に感じる課題や可能性についてお話しいただきました。実際に現場で挑戦を続ける若手リーダーたちの視点を直接聞くことができ、参加者にとって今後の事業立案を考えるうえで大変貴重な学びの機会となりました。
3日目の最後には、グループディスカッションのワークショップを行いました。これまでのフィールドワークで得た学びを振り返り、各チームで今後の事業アイデアや方向性について意見を交わしました。体験と知識を整理し、次のステップへとつなげる有意義な時間となりました。

(フィールドワークで得た学びを踏まえて真剣にディスカッションを重ねる学生たち)
一連の視察を終えた参加者からは、
「香港におけるサーキュラーエコノミーとリサイクルの現実を実際に見ることで、自分の中の「リサイクル」に対する考え方が大きく変わった。」
「企業、政府、スタートアップといった異なる主体が、それぞれの立場から環境課題に取り組む様子を比較できたことで、多角的な視点を持つ重要性を実感した。」
「 Gaau1Upの創業者の情熱と継続的な挑戦に感銘を受け、「利益を超えて価値を創造する姿勢」こそが真のイノベーションにつながると感じた。」
「環境問題への取り組みは特別なことではなく、日常の一部であるべき、という考えに共感し、持続可能な行動を自分の生活にも取り入れたいと思った。」
といった感想が寄せられました。参加者は11月30日(日)開催するフォーラムでのプレゼンテーションに向けて、年齢や国籍を超えてチームを組み、香港国内のサーキュラーエコノミーを実現するビジネスアイデアの立案、検討を進めていきます。
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