
<コラム執筆者>
前田 雄大 脱炭素専門エネルギーアナリスト (Green Innovator Project 実行委員会 アドバイザー)
高市新政権が発足し、エネルギーについても所信表明演説でクリアに方向性が示された。演説では、日本のエネルギー政策上、重視されてきた「S+3E」の4つの概念の中で、あえて安定供給と経済性に言及。2つを特出ししたということで、「私は、4つの中でも特に安定供給と経済効率を重視する」という姿勢が鮮明に出ている。この強調は非常に興味深く、いずれにも当てはまる原子力については、演説の中で2回も言及するなど、相当原子力重視というのが見えてきている。一方、これまでは安定供給、経済効率性と謳うと「火力」が重要というロジック展開が自然な流れであるが、この演説を見ると、火力についての言及はない。過去の発言を見ても、化石燃料について資源国へ頭を下げる外交はもうやめにしようという発言があったことから、火力についてはあまり政策的に推進していかないことが想定される。実際、演説ではGXの継続のほか、エネルギー転換についても言及をしており、火力比率の依存度低下は高市政権の基調路線となりそうだ。
その上で、新規のところで期待となったのが、核融合とペロブスカイト太陽電池だ。いずれもまだ完全に世の中に実装するにはハードルがあるが、核融合については原子力と同じくベースロードとなりえる発電としての期待、そしてペロブスカイトについてはシリコン系と異なり、中国依存をしなくて済む可能性がまだあるということでの期待も込められている。こうした傾向からも、高市総理の掲げる安定供給には、サプライチェーンにおける国外依存率の低さも重要な要素となっていることが伺え、どこまで日本勢がサプライチェーンを形成できるかが大きな焦点となっているとも言える。
とかくエネルギーの方針については、色々盛り込みがちで重点がどこか分かりにくいというのが昨今あった中で、これはかなり鮮明に方向性を示した演説と言えるのではないだろうか。これまでのエネルギー政策の方向性との整合性の調整や、火力が担ってきた調整力の代替手段での確保など、新規論点は多く出てくると思う一方、業界やCO2排出企業に向けたメッセージとしてはクリアであり、動きやすい面はかなりある。これを機にしっかり企業間連携もしながら、GXにおける日本サプライチェーンの形成も進めていきたいところだ。
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