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グリーンイノベーションを加速させる鍵は。トップランナーから次世代イノベーターへのメッセージーGreen Innovator Forum 2023 オープニングセッションー

グリーンイノベーションを加速させる鍵は。トップランナーから次世代イノベーターへのメッセージーGreen Innovator Forum 2023 オープニングセッションー

2023年12月16日および17日に開催された、「Green Innovator Forum」。Green Innovator Academy第三期の受講生が学びの集大成として、新規事業提案や政策提言を行うとともに、各界の有識者、専門家も集い、活発な交流を行いました。

本レポートでは、17日に行われた、パネルディスカッションの様子をお伝えします。

テーマは「Accelerate Green Innovations -Green Innovationの未来-」。各セクター・産業の最前線にいるお三方と、グリーンイノベーションを加速していくための鍵について、また次世代のイノベーターへのメッセージをいただきました。

登壇者紹介

石井 菜穂子 氏 東京大学理事/グローバル・コモンズ・センター ダイレクター
奥田 久栄 氏 株式会社JERA 代表取締役社長 CEO兼COO
大塚 友美 氏 トヨタ自動車株式会社 Chief Sustainability Officer
菅原 聡 一般社団法人Green innnovation 代表理事

システム転換のための4つのレバー

東京大学グローバル・コモンズ・センターのダイレクターである石井氏は、自身がグローバル・コモンズの主唱者(Advocator)でありたいと述べ、人類の繁栄を支えてきた安定的でレジリエントな地球システムを指す『グローバル・コモンズ』について語ります。

石井氏:
「従来の経済システムは、人類の繁栄を支えてきたグローバル・コモンズを、『いくらでも』『タダ』で使えるものだと捉えてきました。しかし、20世紀以降の急速な経済成長は、この地球システムを破壊してきました。」

「地球システムは、9つの重要なサブシステムによって成り立っていると特定されており、9つのうちの6つはすでにTipping Points(限界点)を越えています(プラネタリー・バウンダリー)。これを改善しない限り、地球環境は悪化し続けるだけでなく、不可逆的に毀損されてしまう可能性が高いとされています。一方で、ここ10年間ほどに行われた国家間交渉や国際法・条約を元にする外交活動の結果を見ると、『従来の経済システム』と『地球システム』との関係を見直すことは非常に難しく、さらなる労力が必要であると明らかになりました。東京大学のグローバル・コモンズ・センターでは、このシステム転換のためのフレームワークを提示しています。」

プラネタリー・バウンダリーの状況。2023年時点で9項目のうち6項目が危険領域を超えたと言われている。
出典)Katherine Richardson et al., Earth beyond six of nine planetary boundaries. Sci.Adv.9,eadh2458(2023). https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adh2458

石井氏のキャリアは大蔵省(現財務省)から始まり、IMFや世界銀行、地球環境ファシリティ(GEF)など実務家の側面も持つと同時に、現在は東京大学のグローバル・コモンズ・センターで活動しているという点で、アカデミシャンとしての側面も持ちます。

そんな石井氏は、システム転換における様々なアクターの役割と、技術のイノベーションだけではない、制度政策や社会変革の観点といった多様なトランジションの重要性についても示唆を与えました。

石井氏:
「現在の経済システムを地球システムに対して転換するためには、『エネルギーシステム』『都市システム』『食料システム』『生産消費システム』の4つのシステム転換が重要になります。」

「それらのシステムの転換には、①世界的に重要なビジョンが共有されていること、②ビジョンに応じた制度や政策が適応的であること、③ソーシャルトランジション(社会変革)がジャスト(公正)であること、④イノベーションが起こること、という4つのアクションレバーが重要です。」

「イノベーションが注目されがちではありますが、他の3つのレバーも含めて4つのレバーを同時に動かしていくことで初めて、システム転換を実現させることができます。」

エネルギー問題に最先端のソリューションを

国際エネルギー市場で戦うことができるグローバルな企業体を目標としたJERAの設立に携わった奥田氏は、次のように語りました。

奥田氏:
「JERAのMissionは本格的に事業を開始した2019年4月から『世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する』ことですが、Visionについては事業環境の変化を踏まえ、2022年に『再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせたクリーンエネルギー供給基盤を提供することにより、アジアを中心とした世界の健全な成長と発展に貢献する』ことに更新しました。」

「JERAは国内の電気の3割を発電しており、日本の火力発電容量の半分をJERAが占めています。LNGの取扱量は世界最大規模で、燃料の上流開発から輸送・受入、発電・卸売までバリューチェーンの全てに関わっていますので、エネルギー由来のCO2を削減していく責務は非常に大きいと考えています。」

「『JERAゼロエミッション2050』として、①再生可能エネルギーの導入および火力発電の脱炭素化、②国・地域の特性に応じた最適なロードマップの策定、③現段階の最先端技術を最大限に利用するスマート・トランジションの3つのアプローチによって、二酸化炭素の排出を減らしていきます。」

「実際に、火力発電の脱炭素化と再生可能エネルギーの組み合わせで、JERAの国内事業における脱炭素実現の道筋を示した『JERAゼロエミッション2050 日本版ロードマップ』を策定しました。」

「脱炭素実現に向けた一つの手段である、アンモニアを利用した火力発電の技術開発は既に最終段階に入っています。碧南火力発電所では、2023年度末に燃料の20%をアンモニアに転換した火力発電を始めると同時に、さらなる転換率向上のための技術開発も並行して進めており、2050年に向けて石炭からアンモニア100%へのトランジションを目指しています。このように段階的に転換率を上げていく、スマート・トランジションをJERAは導入しています。」

モビリティカンパニーへの転換

世界には気候変動や貧富の差、また若い世代と高齢者など、複雑化した社会課題がはびこっており、どれか一つだけでも、解決することは非常に難解です。

トヨタ自動車のChief Sustainability Officerの大塚氏は、トヨタ自動車は自動車製造業ではなく、移動そのものを考えることで社会課題を複合的に解決する、モビリティーカンパニーへのモデルチェンジを目指すと語ります。

大塚氏:
「2023年に発表したモビリティコンセプトでは、『1.0 クルマの価値の拡張』『2.0 モビリティの拡張』『3.0 社会システム化』の三つの領域で車の進化を目指すとしています。」

「昨年のジャパン・モビリティショーで提案したコンセプトカーを例にすると、『1.0 クルマの価値の拡張』では蓄電池を利用した動くモバイルバッテリー化や、車椅子でも乗り降りしやすいなどの、様々なクルマの可能性を考えています。『2.0 モビリティの拡張』では移動販売や公共交通等の生活インフラとして、『3.0 社会システム化』では、社会インフラや事業者と情報連携することで、物流の最適化のように、様々な社会課題を解決できると信じています。」

「このように、クルマとしての価値だけではなく、社会インフラや物流インフラの一部になるよう、車の価値を再定義します。都市や生産・消費といったシステムにおいて物理的な移動は不可欠であり、モビリティコンセプトに基づいた取り組みは、様々な場面で、システムトランジションを助けることでしょう。」

共創からグリーンイノベーションを起こすためには

菅原:
「事業を再定義し社会課題の解決を目的とする会社が増えるなかで、共創が鍵になると思います。共創からグリーンイノベーションを起こしていくために大事なことは何でしょうか。」

石井氏:
「2015年の気候変動に関するパリ合意は、歴史的に重要な転換でした。世の中の人々が、2050年までの脱炭素化達成の重要性に気づき、国が本気で向かっていくと感じ取った時点から、脱炭素技術発展の加速が見られました。このような世界的な合意が出来ているかが大切です。」

「気候変動問題は一つのアクターで解決できない規模に広がっています。方向性を決める政治的リーダー、ビジョンやアクションを政策に落とし込む政策担当者、そしてそれをプッシュするビジネス、最後に消費者と投資家の、4つのアクターが、高い視点で共通課題を見据えることで、技術革新がなされると思います。」

「例えば今回のCOP28のエネルギートランジションの議論は、既得権益を守った国々とそれ以外の国が存在し、非常に混沌とした結果になりました。本来ならば共通のゴールに向けた議論を行い、各アクターが目線を合わせた合意形成が必要でしょう。この混沌とした世界のなかで、トランジション・パスウェイを見出した国同士の協働が、革新の草の根となるのではないでしょうか。」

「しかし一方でこの『トランジション』という考え方は非常に難しく、何に向かって(what)、いつ(when)、どう(How)達成するのかというゴールはモザイクに包まれています。国・地域・置かれている状況によってこのトランジション・パスウェイは異なり、正解はありません。」

「科学的(Scientific)に信頼できる(Credible)トランジション・パスウェイを策定することで、政治的リーダーから消費者に至るまでが良い未来へ向けて協力し、世界を正しい方向へ進めることができるでしょう。」

奥田氏:
「共創も大事ですが、イノベーティブな解決方法を見つけるにあたって、三つの大事な要素があります。

「まず一つは『目的と課題の共通認識』を作ることが大切だと思います。」

「二つ目に、共有したゴールに向けて、それぞれの手段が自由であるべきだと思います。色々な国の色々な人が、自然や歴史、文化、価値観に基づいた様々な選択肢を出すことでしょう。どの選択肢も正しく、かつ単体で問題を解決できることはありません。それぞれのバックグラウンドを考慮した上で、互いに認め尊重しあい、助け合うことが必要です。Think Global, Act Local。選択肢の組み合わせは地域や人によって異なりますが、お互いに尊重しながら動くことが大事だと思います。」

「三つ目に、イノベーティブな取り組みで気候変動問題を解決するといいますが、技術(アカデミア)と制度(政府)、ビジネス(民間)の三位一体で動くことは、当たり前に必要になってくるでしょう。」

大塚氏:
「グローバル・コモンズを守るという、未来に向けた目標設定の共有と、協力するマインドセットとが大切になります。現在は、それぞれのステークホルダーが異なるアジェンダを持ち、お互いの評価に時間を使いすぎていると感じる時があります。」

「脱炭素へ向けて時間がなく、前に進むしかない状況です。新しい技術や科学が、過去の政策を否定することがあるかもしれません。しかし、課題に向かって揺るぎなく前に進む、共通資産であるグローバル・コモンズを守るための、生産的な議論が必要です。」

「また、脱炭素を実行するのはやはり現場です。現場の人は手を動かして、頭を使って、日々悩みながら進んでいます。正解は一つではないし、間違えてしまうこともあります。そのなかで、前に進み続ける意識を現場の方は持っていて、そういった価値観や行動指針を共有するためにも、リーダーである皆さんが現場に来て、何かを感じ取っていくことが大切だと思っています。」

脱炭素における現場の声の共有の大切さ

会場からは、現場体験を共有することの重要性は分かる一方で難しくもあり、関係者が多岐にわたる脱炭素の文脈でどうやって現場の手触りのある声や体験を共有していくべきかという質問がありました。

質問に対して奥田氏は、パッションが重要だと語ります。

奥田氏:
「パッションが大切です。企業であれば経営トップのCEOの立場から、本気で脱炭素に向かっていく旨を伝えると、現場の人は真剣に動いてくれます。」

「発展途上国ではほとんどが火力発電によって電力を供給しており、彼らにとって火力発電は必須です。『成果は見えず、儲からないかもしれないが、一緒に二酸化炭素が出ない火力発電の技術開発を行い、世界の脱炭素へ貢献しよう』とパッションを込めて語りかけることで、職人気質の現場の人たちはゼロエミッションの方向を向くことができ、そして現場力を信じたJERAも、ゼロエミッションのロードマップを策定することができました。」

さらに参加者からは、パッションは非常に重要で政策リソースの一つだと考える一方で、脱炭素に向けた市民への説明に関しては、エビデンスだけでは不十分で感情的な反対や賛成があり、エモーショナルな反応に対してどのように向き合えばいいかさらに問いが投げかけられました。

大塚氏は、透明性を持った情報開示やコミュニケーションの重要性を語りました。

大塚氏:
「非常に難しい問題だと思います。例えば色々な取り組みをしている現場で、情熱を傾けている人の話を聞いてもらうことも一つの手だと考えています。」

「ある企業で、環境NGOや人権問題に取り組む団体の方など、様々な立場の人たちとの議論に参加したことがあります。その企業は、自身のアクションに関して情報開示を行い、不安や心配のある点もオープンにした上で 議論をしたいと述べました。結果この場では、様々な立場の人が批判や非難だけではなく、未来に向けた次のアクションについて議論ができました。このようなオープンな場を作るなどの、コミュニケーションの方法について工夫するだけで、何か変わるのではないかと考えます。」

これからの若手リーダーへ

菅原:
「最後に登壇者の皆さまから、これからの日本や世界を変えていく若手のリーダーに向けてメッセージをお願いします。」

石井氏:
「一人一人の市民の方の情熱が世界にどう繋がっていくのか。奥田氏の仰った、Think Global, Act Localは重要ですが、非常に難しい課題です。グローバル・コモンズを守る時に世界のルール作りはどうなるべきなのか、世界のルール作りにおいて自分たちの役割はどこにあるのか、と考えられる視野を持ち、考え続け、周りにも影響を与えられるようなリーダーに育ってください。」

奥田氏:
「考え方や価値観の違いを楽しむ余裕を持ってください。違いをお互いに否定せずに、第三のもっと違う次元の高い視点で、一緒に解決に持っていけるといいです。新しいリーダーの模範として、価値観の違いを楽しむ余裕を持って、解決策を見出していただくことが重要だと考えます。」

大塚氏:
「地球環境問題は、2015年のパリ協定から8年経っても解決策が見えないような、難しく複雑な問題であることはわかっています。格好よく、素敵なアイデアでは解決を導けません。みんなで悩み続けて、やり続けて、ダメなものを潰して、いいものを探す。それしかないので、一緒に悩み続けましょう。若手のリーダーとして、そんな仲間になってください。」

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