2024年12月21日および22日に開催された、「Green Innovator Forum」。2024年8月より5か月間にわたって開講された「Green Innovator Academy」第4期の集大成となるイベントです。
Green Innovator Academy第4期の受講生が、学びの集大成として新規事業提案や政策提言を発表するとともに、各界の有識者や専門家が集い、活発な交流が行われました。本レポートでは、21日に行われたキーノートセッションの様子をお伝えします。
テーマは「これからの未来に求められるGreen Innovatorとは」。グリーン領域の最前線で事業を展開する4名の登壇者が、リスクや困難も伴うグリーン事業をいかに推進するかについて議論を繰り広げました。
山田 唯人 氏 (McKinsey & Company Senior Partner)
一倉 健悟 氏 (株式会社JERA Cross取締役執行役員 CPO)
西和田 浩平 氏 (アスエネ株式会社Co-Founder代表取締役CEO)
蛭間 芳樹 氏 (日本政策投資銀行 業務企画部イノベーション推進室 兼 スカイドライブ社外取締役)
山田氏:
本日は、なぜ現在の事業に取り組んでいるのか、過去にさかのぼったその原体験と今後描く未来についてお伺いしたいと思います。まずは簡単に自己紹介をお願いします。
西和田氏:
2019年にClimate Techのスタートアップであるアスエネ株式会社を立ち上げ、現在6年目になります。気候変動×テクノロジーの領域で、企業のサプライチェーンにおける二酸化炭素排出量の見える化のクラウドサービスや、排出権取引のプラットフォーム、コンサルティングを提供しています。脱炭素のワンストップソリューションを当社の強みとしながら、日本国内だけでなく、アメリカ、タイ、シンガポール、フィリピンの5カ国で事業を展開しています。
一倉氏:
もともと東京電力に入社し、長らくDX(デジタルトランスフォーメーション)に携わっていました。現在はD(デジタル)をG(グリーン)に変え、企業のGX(グリーントランスフォーメーション)を支援する株式会社JERA Crossにて事業の責任者を務めています。
GXを進める際の課題を、①方針や計画を策定する際の戦略的課題と、②実装段階で直面する技術的な課題の二つに分類して定義し、双方からの課題解決力および幅広いパートナーとの連携を強みとしています。
我々は、「24/7」、すなわち、毎日24時間毎週7日間、年間を通じて二酸化炭素を排出しない電力を供給することを目指しています。
蛭間氏:
日本政策投資銀行(DBJ)は持続可能な社会の実現に向け、いまの中計ではGeen、Resilience、Innovation、Transitionから成る「GRIT戦略」を掲げています。当戦略に基づき、社会変革を担うディープテック(*1)領域に投資を行うチーム「イノベーション推進室」を立ち上げ、そこに所属しています。財政や補助金の世界と、金融の世界をつなぐ触媒としての機能を担うことに挑戦しています。産総研やNEDOなど、組織外のエキスパートにも出向頂き、多様な個性と専門性を有するチームで内外のスタートアップへの投資と経営伴走・ハンズオンをしています。
山田 唯人 氏 (McKinsey & Company Partner)
山田氏:
三者三様の事業展開についてお伺いしましたが、皆さまが現在の事業に取り組むきっかけは何だったのでしょうか。
西和田氏:
大学2年まではプロのミュージシャンを目指しており、ギターや作曲をしていました。当時尊敬していた音楽家が、ライブや音楽を販売した収益で環境関連の会社に投融資を行っていることを知り、ビジネスで社会を変えることに興味を持ち新卒で商社に入社しました。
ブラジル駐在時に、日本の再エネが約20円/kWhである一方で中南米では約3円/kWhと大きな差があることを目の当たりにし、日本と世界とのギャップを感じ、日本からグローバルに出るような会社を作りたいと考え、起業しました。
新卒で入社した商社を辞めるにあたって反対もありましたが、出向時の先輩が30代前半で経営を始めていたこともあり自分も経営に挑戦したいという強い思いがありました。さらには自ら事業を立ち上げるのかM&Aで経営に関わるのかを比較した際に、前者のほうが自身が目指したい未来を描けると考えたので、リスクをとりました。
山田氏:
一倉さんは、自ら企業を辞め起業された西和田さんとは異なり、入社された企業で事業を切り拓かれているかと思いますが、どのようなことを考えていたのでしょうか。
一倉氏:
先ほど申したような普通のキャリアを歩むなかで、戦略計画を立ててもいつも「総論賛成各論反対」の状態に陥り実行段階で止まってしまうことに課題を感じていました。
特別な原体験はないですが、そのような課題感を持ちながら、自分自身が安易に断る性格ではないこと、また、お客さまに求められていることや市場のニーズに対して課題を一つ一つ冷静に解くことを続けた結果として今に至ったのだと思います。
蛭間氏:
私は価値と価格のギャップを埋めることに、バンカーとして取り組みたいと考えています。社会的な価値と経済的な価格は異なっていて、両者の差を最も効率的に埋められるのは金融機関だと思います。
金融の観点からは、根源的・長期的な価値に対して覚悟を持って投融資ができるような金融機関側の行動変容も求められていると考えます。例えばESG投資が一例かもしれませんが、ルールや規制だからやるのではなく、長期的な価値や地域・将来世代に還元するような投資価値を見出せる金融機関にならないといけないと思います。自分たちのバランスシートの健全性や安定性にばかり気にしすぎていては、それはできません。
西和田 浩平 氏 (アスエネ株式会社Co-Founder代表取締役CEO)
山田氏:
5年後などの将来考えて、いま力を入れたいことはありますか。
西和田氏:
長期で大変重要なことは、GHGや脱炭素、ESGという非財務的な概念を、ファイナンスとカーボンクレジットを通じて資本主義に組み込むことだと思います。インパクトを出すためには、資本主義の仕組みに当てはめていくことが大切です。
一倉氏:
技術面と戦略面で一つずつ注力したい点があります。技術面からは、太陽光発電をはじめ再エネの導入量が増加するなかで、再エネの発電量を抑える出力抑制をはじめとした社会的コストの増加が懸念されており、解決していきたいです。
戦略面からは、現在コストと捉えられている二酸化炭素排出量削減の取り組みを価値に変えていきたいと考えています。例えば、価格だけでなく、自社のミッションやビジョンに合う意味のある電源調達を志向する企業さまも増えています。キーワードでよくお聞きするのが「うちらしい」という言葉です。
一倉 健悟 氏 (株式会社JERA Cross取締役執行役員 CPO)
山田氏:
事業を進められるなかで苦労されたことはありますか。
西和田氏:
困難は数えられないほど起きます。特に最初は人の面で苦労しました。創業期は1人で、2年目から共同創業者を2名ほど増やしましたが、本当にコミットしてくれる人をどのように口説くかは大変なところもありました。最初のプロダクトが何もないうちは、やっぱりイメージわかないんですよね。
一方で、サービスリリースをしてからは全く感触が変わりました。やはり目に見えるものになるとみんな動き出すので、何か誘う際には、何か目に見えるものがあると面白いと思います。
一倉氏:
ほぼ毎日、大変なことがあります。社外に出てみて、外のお客様との仕事以上に、企業内の大変さのほうが多かったと感じています。
発電所でDXを行った際には、戦略を作り経営会議で承認をもらっていざ実行する段階で、その発電所で働く3000人に反対されました。1対3000の状態となり、仲間探しをすることから始まりました。少しずつ進んでも、いざ実行の段階となると「それはこの業務じゃない」「私の業務じゃない」と全く協力してもらえない状態でした。そういう時は本当にもう現場に張り付いて、隙を見つけて話しかけて粘り強く仲間を増やしました。
蛭間 芳樹 氏 (日本政策投資銀行)
山田氏:
最後にオーディエンスの皆さんへ一言お願いします。
蛭間氏:
不透明な国際情勢のなかで、まもなく「脱・脱炭素」の動きが必ず来ると思います。グリーンイノベーションへの挑戦に対する逆風に負けないでください。
西和田氏:
よくITでは日本は負けたと言われますが、GXではグローバルで勝てると私は考えています。この領域はいま本当に大きな変革が起きていて面白い時期なので、起業をしたり、企業に就職したり、スタートアップで学ぶなど、ぜひ様々な機会をつかんでください。
一倉氏:
まずは今とにかく何かをすることを選ぶといいと思います。今企業で働く方も学生の皆さんも何かしら機会はあると思います。機会を前にした際に、少し自分が勉強してから、経験を積んでからやろうではなくて、とにかくやってみようという選択をすると、次につながると思います。私も普通のキャリアですが、今ここにいるのはそのような選択の結果だと考えているので、ぜひチャンスを生かしてください。
*1 ディープテック:特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術であり、その事業化・社会実装を実現できれば、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の 解決など社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術のこと。他方、①研究開発の成果の獲得やその事業化・社会実装までに長期間を要することにより不確実性が高い、②多額の資金を要する、③事業化・社会実装に際しては既存のビジネスモデル を適応できない、といった特徴を有する。
私もGreen Innovator Academy学生プログラムを受講し、2024年から企業で働き始めました。経験も知識も未熟ですが、一生かけても”充分”にならないのだろうと感じています。Green Innovator Academyのスローガンである「Be the Change」を心に刻み、セッション内にも発言があった通り、とにかく行動に移していきたいと思います。
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