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誰もがアクセスできる循環経済を。有識者が語る、サーキュラーエコノミー転換への一歩

誰もがアクセスできる循環経済を。有識者が語る、サーキュラーエコノミー転換への一歩

2022年12月17日に開催された「Green Innovator Forum」。2022年8月末より4か月にわたって開講された「Green Innovator Academy」第二期の集大成となるイベントです。2030年の未来を描き、グリーンイノベーションの更なる創発を目的として、5つのパネルディスカッションが実施されました。本レポートではこれらのうち「サーキュラーエコノミーへの転換を加速するには」というテーマで行われたディスカッションを取り上げます。
※Green Innovator Forum 各パネルディスカッションは3/31までアーカイブ配信中です

サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、資源のリサイクルや再利用、ビジネスモデルの転換などによって資源の価値を高く保ちながら循環させ、新たな資源の使用量や廃棄量を最小限にする新たな経済システムのことです。「リユース・リデュース・リサイクル」の3Rとは、廃棄を前提としない考え方を行う点が異なります。

OECDによると、2060年の世界全体の原材料資源の利用は現在の2倍近くになると言われています(※1)。現在のような、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたリニア型の仕組みでは、気候危機や生物多様性の喪失といった環境への悪影響がより大きくなってしまいます。そんな中、増加する人類の経済成長や生活の質の向上を実現することと環境負荷を低減することを両立させる仕組みとして、サーキュラーエコノミーが注目されているのです。

今回のディスカッションでは、総合電機メーカー、ものの循環の仕組みをつくる「循環商社」、「Green Innovator Academy」の受講生のそれぞれから、今まさに循環型社会の実現に向け事業に取り組む3名が登壇しました。どうすれば本当にサーキュラーエコノミーを実現させられるのか、一緒に考えていきましょう。

登壇者紹介

坂野晶 氏 一般社団法人Green innovation 理事/一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン 代表理事
島田太郎 氏 株式会社東芝 代表執行役社長 CEO
川野輝之 氏 株式会社ecommit 最高経営責任者 CEO
和田菜摘 氏 SOLIT株式会社 環境人権管理部 / サセックス大学大学院 開発人類学部 卒業 /Green Innovator Academy 二期生

サーキュラーエコノミーへの転換の芽

サーキュラ―エコノミーという大きな社会の転換に向けて、取り組みの芽が少しずつ成長しています。

一つ目の取り組みは、CO2の排出量や廃棄物の削減量の可視化です。株式会社東芝の島田さんは、「私が一番問題だと思うのは、私たち自身がどこからどれだけのCO2を排出しているのかを知らないこと、どの商品を選べばCO2の排出量を減らせるのかがわからないこと」と話します。そこで東芝では、「スマートレシート」というサービスを展開し、紙レシートやCO2の削減量といった環境への貢献度を「見える化」するアプリを提供しています。

データの可視化に加えて、循環型社会を支えるインフラづくりも重要です。株式会社ecommitの川野さんは、「社会には循環していないものが大量にある」「本当に価値のあるものが毎日捨てられている」「循環のインフラがまだまだ足りていない」と話します。そこでecommitでは、データやIoTを活用して「廃棄ではなく循環を前提とした新しいものづくりの仕組み」の構築に取り組んでいます。

サーキュラ―エコノミーの実現においては、そもそも廃棄物を発生させない仕組みづくりも求められます。

Green Innovator Academy受講生である和田さんが勤めるSOLIT株式会社では、大量生産、大量廃棄を繰り返しがちになってしまうことや、一方で着たい服や使いたいものの選択肢に恵まれないユーザーが存在するという現状など、ファッション業界が抱える課題の解決に取り組んでいます。「必要とする人に、必要とされているものを、必要とする分しか作らない」という考えに基づいて、①多様な人々を企画段階から巻き込むインクルーシブデザイン、②一人一人の要望に対応するセミオーダー、③依頼を受けて生産をする受注生産、の3つの仕組みを通してサーキュラーエコノミーを実践しています(※2)。

島田太郎氏

転換の加速に必要なのは企業の努力?

以上で紹介したような取り組みをさらに加速するためにはどういったことが必要でしょうか。企業による取り組みとして、三つの重要なポイントが議論されました。

一つ目は、循環させるという行為を「買う・捨てる」のような身近なものにすることです。例えば、新しいものを届ける仕組みを考えると、日本のほとんどの地域ではインターネットで注文すれば数日で欲しいものを手に入れることができます。一方で、使用済みのものを回収したり再利用したりするための仕組みはまだまだ身近ではなく、「アクセシビリティ」は低いのではないでしょうか。

この「アクセシビリティ」という言葉は「利用のしやすさ」という意味を表します。アクセシビリティの向上は、より多くの消費者が持続可能なライフスタイルを取り入れるうえでの重要なポイントとなっています。

例えば、アクセシビリティの重要な要素の一つに「場所」があります。不要品の回収拠点をマンションやスーパーといった生活に近い場所に設置することで、より多くの人が気軽に利用できるのではないでしょうか。

川野さんは、「そもそも環境問題に興味がない人の方が全体の中では圧倒的に多い。ただ、その人達を巻き込んでいかないとゲームチェンジはできない」と語ります。アクセシビリティの向上は、行動を変えようとしている消費者を後押しすることに加え、今はまだ行動を起こすことができていない人やこういった話題に興味がない人たちを巻き込んでいくために大変重要だと言えるでしょう。

坂野晶

二つ目の重要なポイントは、大企業とスタートアップ企業との協働です。例えば東芝では「東芝オープンイノベーションプログラム」を運営し、東芝が持つビジネスアセットを活用しつつ新しい事業領域の拡大や事業共創に取り組む場を設けています(※3)。

島田さんは「スタートアップ企業の素晴らしいところは、大企業の中からは出てこないアイデアを提案してくれることだ」と話します。サーキュラーエコノミーに資する取り組みを行うスタートアップ企業は日々増加しており、今後ますます大切な役割を担うことが期待されています。互いの強みや技術を共有する場を設けてマッチングのニーズに応えることで、スタートアップの活躍を引き出し、新たな循環型のサプライチェーンやモデルの創造の促進につなげようとしています。

三つ目の重要なポイントは、「コストはかかるが仕方なくやる」ではなく「環境への良いインパクトと利益を同時にもたらすビジネスをつくる」という各企業の発想・視点の転換です。島田さんは、「カーボンニュートラルはコストセンターだ」と語ったうえで、「我々が会社として今一番投資をしようと考えている技術開発はCO2削減証書を発行できるようなカーボンネガティブに関するものであり、各企業が真剣に取り組むところまで持っていかないと地球が持たない」と語ります。カーボンネガティブとは、事業に関連する温室効果ガスの排出量よりも吸収量が多くなる状態を表し、排出権削減証書の販売を通じて採算をとることも考えられます。

一方の川野さんも、「(衣類回収のような)我々のサービスを使うと儲かる、しかも世の中のためになるというサービス開発を徹底的に追求していく必要がある」と話します。

川野輝之氏

転換の加速に必要なのは消費者の意識改革?

ここまで、企業の取り組みにおいて重要なポイントを議論してきました。一方で消費者も、企業が提供する商品やサービスを受動的に消費するだけではなく、自身の消費や行動を改める意識改革の面で重要な役割を担っています。

この意識改革について島田さんは、消費に対する社会全体の認知が変わらないといけないと話します。例えば自動車産業においては、1970年代に起こったオイルショックの影響を受けて燃費の悪い車は好ましくないと社会的に認知されるようになりました。その後消費者は安全性の高い車を求めるようになり、更に今では燃費のみならず排気ガスや材料を含めて環境負荷の少ない製品を評価して好む傾向が定着しています。

こうした社会の変革に大きな影響を与えるのが消費者の意識で、ドイツのシーメンス社出身の島田さんは「ドイツの人々のサーキュラーエコノミーに対する意識は非常に高い」と言います。和田さんも「大学時代を過ごしたイギリスに行ってから服や物に関しての価値観が変わった。服がない際に友達が捨てようとしているものを譲ってもらう環境があって今の生き方になった」と話します。「Green Innovator Academy」の参加者にも、海外の消費者の環境意識に触れたことをきっかけに環境課題に興味を持ち意識が変わったという人が多くいました。

こうした意識改革をどのようにしたら着実に起こせるのかを考えることが重要だ、と島田さんは続けます。消費者の意識改革の例としては、サーキュラ―エコノミーの実現のためには様々なコストがかかることを正しく認識することや、環境に配慮した商品や企業を正当に評価すること、消費活動を通して自分たちの選択の意志を示すことが挙げられます。消費者による能動的な少しの意識変革が、着実な社会の変化を創り出していきます。

和田菜摘氏

私たち自身の一歩が転換を加速させる

このように企業の努力と消費者の意識改革はいずれも不可欠でかつ互いに影響し合っています。CO2削減量の「見える化」や、循環の仕組みへのアクセシビリティを向上させるといった企業側からの仕組みづくりの動きと、消費者側からの意識改革という動きの双方が組み合わさることで、サーキュラ―エコノミーへの転換を加速することができると言えるでしょう。

パネルディスカッションの最後に登壇者から共有されたのは、「誰かを悪者にするのではなく、サプライチェーン、バリューチェーン全体で一歩ずつ進んで行きましょう(川野さん)」、「すべての人が意識を改革し、どのように解決するかを考え、行動を起こしていきましょう(島田さん)」、「それぞれができることをやり切って転換を加速させていくことが大切です(坂野さん)」という言葉でした。

サーキュラ―エコノミーへの転換は、一社一社、そして一人一人の意識や行動の変化によって加速させられる、そんなメッセージが込められたディスカッションでした。

編集後記

筆者が大分県に帰省した際、多くの人が車を使いながら段ボールを回収場に出しに来ている様子を見ました。段ボールをその回収場へ持っていくという仕組みが地域で身近になっているのだと感じました。ほかにも、図書館での電池回収やスーパーでのトレー回収など、資源を循環させる仕組みは身近な場所に色々とあることを改めて意識しました。
社会の転換だけではなく、自分自身がサーキュラーライフへの転換をいかに加速させられるかも考え、行動に移していきたいと思います。

Green Innovator Academy 1期生 別木 苑果

※1 原材料資源の利用は2060年までに2倍増加し、環境に深刻な影響を及ぼす(OECD)
※2 ファッションにおけるサーキュラーエコノミー実践(SOLIT)
※3 「Toshiba OPEN INNOVATION PROGRAM 2022」参加企業9社と協業検討を開始

編集協力:

「IDEAS FOR GOOD」(https://ideasforgood.jp/
IDEAS FOR GOODは、世界がもっと素敵になるソーシャルグッドなアイデアを集めたオンラインマガジンです。海外の最先端のテクノロジーやデザイン、広告、マーケティング、CSRなど、幅広い分野のニュースやイノベーション事例をお届けします。

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