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【専門家インタビュー】 一般社団法人unisteps 共同代表理事 鎌田安里紗氏

【専門家インタビュー】 一般社団法人unisteps 共同代表理事 鎌田安里紗氏

次世代のグリーンイノベーターに向けて、第一線で挑戦を続けるプロフェッショナルに話を聞くインタビューシリーズです。環境・気候変動をめぐる課題解決の最前線において、どのような実践や思考が積み重ねられているのか。その歩みを通じて、キャリアや研究のあり方を探ります。

第2回は「多様で健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる、一般社団法人unisteps 共同代表理事の鎌田安里紗氏にお話を伺いました。


PROFILE
鎌田 安里紗(Kamada Arisa)氏
2009年より、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。2020年に一般社団法人unistepsを共同設立。企業・行政・デザイナー・生活者など、多様なステークホルダーと共にファッション産業におけるサステナビリティに関する取り組みを推進する。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。インスタグラムを通じて、ものづくりに関するプロセスやストーリーを多角的に発信している。


<活動のきっかけについて>

― 鎌田さんは高校生から活動を開始されていますが、初期から現在のような産業全体の「構造的問題」を意識されていたのでしょうか。

最初から大きな構造が見えていたわけではありません。むしろ、自分にできることから一歩ずつ踏み出す中で、徐々に問題を構造的に捉えられるようになってきました。

高校時代は、アパレルショップでのアルバイトとモデル活動をしていました。ちょうど日本にファストファッションが浸透し、服の価格が劇的に下がった時期です。コンビニでスイーツを買うような感覚で服が消費され、そのスピードがどんどん加速していく。売り手としても買い手としても、その状況にどこか違和感を覚えていました。

ブランド側が安さを追求し、自社生産から海外での買い付けへとシフトしていく中で、私も担当として韓国に行く機会がありました。そのとき、「このままのものづくりでよいのだろうか」と考えるようになりました。そこから特にファッション業界の労働環境に強い関心を持つようになりました。

デザインや価格だけで服を選ぶのではなく、生産の背景にも目を向けてもらうにはどうすればよいのか。その答えを探すために生産現場を訪ね、学んだことをブログで発信し始めたのが、私の活動の出発点です。

― 長年にわたり、行動を続けてこられた点から、ファッションへの強い思いが伝わってきます。

20代中盤までは、「いかに生活者ひとりひとりに問題意識を持ってもらうか」に主眼を置いて活動していました。もちろん個人の意識変容は重要ですが、すべての製品の生産過程にまで常に意識を向け続けることは、生活者にとって現実的ではありません。

そこで個人の意識に頼るだけでなく、社会全体の構造的な問題にアプローチし、生産背景に配慮したものが作られやすく選ばれやすい仕組みを作ることの重要性に気づきました。生活者、企業、行政では持っている情報も見えている景色も異なります。だからこそ、それぞれの立場を越えて対話し、つながることができる場が必要だと考え、一般社団法人unistepsを設立しました。

<現在の活動について>

― 現在、特に注力されている活動について教えてください。SNSでの発信を拝見すると、芭蕉布など伝統的な生産方法にも関心を向けておられるのではないかと感じました。

2021年の発足以来、「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)」の事務局運営に注力しています。ファッションおよび繊維業界の民間企業約70社と関係省庁が参画する企業連携プラットフォームで、企業間の協働による新たな可能性の創出や、現場の声を反映した政策提言に取り組んでいます。

事務局としてこの5年間は、平日の多くの時間を運営業務に費やし、企業の事業構造や政策決定プロセスなど、多くのことを学びました。一方で、当初は「大量生産」「高頻度な商品サイクル」「不透明な生産背景」といった問題意識を強く持っていましたが、それぞれの立場から産業システムを理解しようとするうちに、「この構造であれば、そうならざるを得ない」と、既存のシステムに納得してしまう感覚も生まれました。

だからこそ、システムへの批判的な視点や理想のあり方を見失わないために、あえて手間のかかる独自の方法でものづくりを続けている人に会いに行くようになりました。さまざまな現場を訪ね、彼らが何を考え、どのようにものづくりに向き合っているのか、「ものづくりの原点」に触れる時間を大切にしています。

また、情報発信においては、「課題」を訴えるだけでなく、ものづくりの現場の面白さを伝えることを重視しています。もちろん、環境負荷や人権、労働環境に対する強い問題意識は持っていますが、学生時代に初めて工場を訪れた時に感じた「衣服づくりの面白さ」を伝えたいという思いがあるからです。

植物であるコットンが糸になり、生地になり、染められ、裁断され、縫製されていく。たとえ大規模な生産であっても、その一つひとつの工程には驚くほどの工夫が詰まっています。その過程を知らずに服を着るなんて、もったいない。私は衣服に込められた人間の想像力や創意工夫に触れるたびに、心から感動し、わくわくします。そうした感動のあとにこそ、「服は使い捨てにするものではないのではないか」「これだけの工程を経ているのなら、もっと価値があってよいのではないか」といった問題意識が自然と芽生えるのだと思います。

気づけばものづくりの現場を紹介する活動を続けているのも、そうした思いが原点にあるからかもしれません。

― たしかに深刻になりがちな環境問題の発信において、伝え方や切り口は非常に重要な視点だと感じました。

(インタビュアーを含め)ここにいる人たちはきっと環境に関する取り組みを見ても「面白い」と感じられる人だと思います。もちろん、人によって面白いと感じるかは異なりますが、面白いというその純粋な感覚をもっと共有していくことが大切だと考えています。

怒りを表明したり、問題意識を示したりすることも必要ですが、自分が何にわくわくしているのかを伝える方が、より多くの共感を得られるのではないかと感じています。

<学生時代について>

― 学生時代に挑戦して良かったこと、また逆にやっておけば良かったと思うことはありますか。

インタビューに取り組んだことは、学生時代にやっていて良かったことの一つです。「学生」という立場であれば、多くの方がインタビューに快く応じてくださいます。そこで得られるお話が刺激的であることはもちろん、そのつながりをきっかけに仕事をご一緒したり、イベントに声をかけていただいたりすることも少なくありません。会いたい人に会いに行ける貴重な機会として、インタビューに挑戦することをおすすめします。

一方で、やっておけば良かったと思うのは、留学や海外で暮らす経験です。高校時代から仕事を始めていたこともあり、当時は留学という選択肢が頭にありませんでした。しかし現在、ファッションやサステナビリティの分野でさまざまな国の人と仕事をする中で、ある程度は聞き取ることができても自由に喋れないということに不自由さを感じる場面があります。もちろん、海外に住めば必ず話せるようになるわけではありませんが、その土地で暮らし、その国の言語を使う経験は、その後の人生にも大きく生きてくるはずです。もし時間に余裕があるなら、学生時代にぜひ挑戦してほしいと思います。

― 大学・大学院での学びは、現在の活動にどのような影響を与えていますか

昨年3月に博士課程を修了したばかりで、今後についてはまだ分からない部分もありますが、主に2つの学びがあったと感じています。

一つは研究テーマに関する専門的な知見が身についたこと、もう一つは、学術的な思考や研究の「型」を身につけられたことです。

研究テーマについては、自分の関心領域でもあるため、現在の活動にも直接生かされています。私の専門は、日本の地域における自然資本管理や生物多様性の保全管理でした。自然の活用を地域経済に還元し、経済が潤うことで自然を守る動機が生まれる――そうした好循環を生み出すための連携や仕組みを研究していました。

対象とする分野は異なりますが、この考え方はファッション業界での仕事とも本質的に共通しています。地域単位からグローバルな産業へとスケールは変わっても、資源利用のペース調整や保全への動機付け、そして多様な関係者が動くきっかけを作るという点では、当時の知見をそのまま応用できていると感じています。

一方で、テーマを深く掘り下げること自体は、必ずしも大学に限らずビジネスの現場でも可能です。正直に言えば、論文を書き、査読を通す過程には多くの苦労がありました。それでも、振り返ると、大学院での研究は自分にとって必要不可欠な経験でした。先行研究を読み込み、まだ明らかにされていない問いを探す。そして、自分なりの新規性をどのように提示するかを考える。参考文献の整理といった基本的な作法も含め、周囲から常に指摘を受け続ける環境の中で論理を積み上げていく過程は、いわば「知的な体力」を鍛える作業だったと思います。

その知的な体力は、現在の仕事においても不可欠です。これがなければ、複雑な議論の場で思考が追いつかず、耐えきれなくなってしまうかもしれません。議論の質を徹底的に鍛えてもらえる環境に身を置くことができたことは、本当に大きな財産になっています。

<活動をするなかで感じるギャップについて>

― 現在、繊維業界では「コスト」や「トレンド」が優先される場面も多いと思います。大学時代に培った環境やサステナビリティへの意識との間にギャップを感じる若手も少なくないのではないでしょうか。こうした現実に直面して絶望感を抱いたり、活動を続けることに迷いを感じたりしたことはありますか。また、そのような状況とどのように向き合ってこられたのでしょうか。

絶望することもありますよね。そういう時に気軽に話せる仲間が身近にいることは、とても重要だと思います。その上で、どう乗り越えるのかという点においては、「偶然の重なり」という考え方を大切にしています。

さまざまな経験や出会いの中で、たまたまサステナビリティや環境に関心を持つようになりました。しかし、もし別の環境に身を置いていたなら、私自身も「安くてかわいいもの」や「売上」だけを追求していた可能性は十分にあると思います。

だからこそ、意見が異なる人と出会ったときには、「これまで歩んできた道、出会ってきたものが違うだけだ」と受け止めるようにしています。もちろん、これからも自分なりの方法で発信を続けていきますが、相手が異なる立場にあったとしても絶望しないのは、自分の現在の考えや立場もまた偶然の積み重ねによって形づくられたものだと思っているからです。

― 安くて魅力的な商品を生み出すためにも、社内での議論や海外の工場との調整など、多くのプロセスが積み重ねられています。その過程に対する敬意を忘れてはいけないと実感しています。

そうですね。同時に、売上や効率だけでなく、サステナビリティへの関心を持ち、それを前向きに語る人の存在は、周囲を少しずつ変えていく力になるはずです。そうした姿勢を持ち続けること自体が、大きな意味を持つのではないでしょうか。

<今後の展望について>

―実現したいビジョンがあれば教えてください。

unistepsでは、「多様で、健康的なファッション産業をつくる」というビジョンを掲げています。

まず、「多様」であることです。現在、資本の偏りがますます顕著になっており、インディペンデントなブランドが事業を継続することが難しくなっています。仮に、大手数社が完璧にクリーンなものづくりを実現できるようになったとしても、寡占状態では豊かなファッション産業とは言えないと私たちは考えています。デザイナーやブランドの意志や哲学が反映された小規模なブランドが共存し、多様なものづくりが存在していることが理想です。

これは衣服の生産過程においても同様です。AIによって制御された効率的で安全な工場も一つの形ですが、その土地の気候風土や歴史を生かした、手間のかかるユニークなものづくりも残っていてほしいと考えています。生産現場においても、このような多様な選択肢が維持されている状態を守りたいと考えています。

そして「健康的」であることです。人権や環境に完璧にハームレスな状態を実現し、継続することはほとんど不可能とも言えます。問題が一切存在しない社会を実現することは難しいとしても、この産業に関わる生産者や消費者が心身ともに健やかであり、自然環境も過度に損なわれていない――そのような「健康的」な状態が保たれることを目指しています。

<読者へのメッセージ>

― 最後に、サステナブルファッションに関心を持ち、本記事を読んでいる皆さんへメッセージをお願いします。

すでに関心を持っていること自体が、大きな一歩だと思います。そのうえで、もし余裕があれば、具体的な行動につなげてみることも大切です。例えば、好きなブランドに直接質問してみるのも一つの方法です。

もし、そのブランドの取り組みに疑問を感じたり、「買ってよいのだろうか」と迷ったりしたときは、その思いをそのまま伝えてみてください。InstagramのDMや問い合わせフォームからの声は、企業にとって大切な顧客の声として受け止められます。そうした一人ひとりの関心が、ブランドの行動を変えていく力になることもあります。

また、必ずしもファッションに関心がなくても構いません。自分が好きなものについて、その生産の背景に目を向けてみてください。可能であれば、実際の現場を訪ねてみるのもよいでしょう。そこには純粋に楽しい発見があり、その延長として衣服づくりにも関心を持ってもらえたら嬉しいです。

― 本日は貴重なお話をありがとうございました!

<インタビュー後記>

今回は、SNSを通じて日頃から学びを得ている鎌田安里紗さんにお話を伺いました。インタビューを通じて、目の前の課題に真摯に向き合い続けることの大切さを改めて実感するとともに、その洞察の深さや物事の捉え方から、多くの示唆を得ることができました。貴重な機会をいただき、心より感謝申し上げます。(GIA4期 星野文香)

※本インタビューはGIA第4期生の塩谷・星野、第5期生の宝達が実施しました(内容は2026年2月時点)。

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