
<コラム執筆者>
前田 雄大 脱炭素専門エネルギーアナリスト (Green Innovator Project 実行委員会 アドバイザー)
アメリカによるイラン攻撃を受け、中東情勢が急速に緊迫化し、ホルムズ海峡を巡る混乱が世界のエネルギー市場を揺さぶっている。筆者もベネズエラの次に注視すべき地政学リスクはイランだと指摘していたが、その懸念が想定以上の速度で現実化した形だ。
もっとも、この構図は決して突然生まれたものではない。パレスチナ情勢を追っていれば、イランとイスラエルの対立が構造的にエスカレートしていたことは明らかであり、2025年初頭には事実上の“point of no return”を迎えていたと見る専門家もいるのだ。Green Innovator AcademyのOB・OGであれば、筆者がGX概論講義の中でホルムズ封鎖について言及していたのを記憶されているかと思うが、つまり今回の事態は「予測不能なブラックスワン」というより、地政学リスクを追っていれば一定程度想定可能だった展開でもある。
ホルムズ海峡は、中東から世界へ向かう原油・LNGの大動脈だ。問題は軍事的な完全封鎖の有無ではない。ミサイルやドローン攻撃のリスクが高まれば、戦争リスク保険が成立せず、タンカー運航や傭船契約が成立しない。結果として「商業的に通れない」状態が生まれる。日本にとって問題が深刻なのは、原油輸入の中東依存が極めて高く、その多くがホルムズ海峡を通過しているためだ。代替ルートは存在するものの、輸送距離やコストが大きく増えるため、「届かない」か「極めて高くなる」かの構造に近い。短期的には石油備蓄が緩衝材となるが、最終的に企業に影響するのは価格である。原油価格が上昇すれば、物流、素材、化学製品などを通じてコスト全体に波及する。
さらに構造的に脆弱なのはLNGだ。石油と異なり長期備蓄が難しく、日本の在庫は数週間程度とされる。加えてLNGは長期契約が中心で供給調整も難しい。「溜めにくく、急には買えない」という特性を持つエネルギーであり、供給ショックがそのまま経済リスクに直結しやすい。
今回はもしかしたら短期で収束するかもしれない。しかし、この事案が示したのは、外部依存は効率であると同時に「他者にレバーを渡す」構造でもあるという現実だ。GXを巡る競争環境においても、エネルギー調達や素材サプライチェーンの外部依存は、企業のリスク管理そのものに直結するテーマになりつつある。
だからこそ今、企業に求められるのはエネルギーポートフォリオの棚卸しである。こうした混沌の時代のリスクを想定し、例えば電気をバーチャルPPA契約にしていた企業は電力市場の高騰の中で、逆に収益増の機会を迎える。そういう時代なのだ。調達先の地政学リスク、電源構成、サプライチェーン依存度――これらをGX投資や事業戦略と一体で再設計できているかどうかが問われている。
混沌の時代において重要なのは、危機が起きてから慌てることではない。正しい情勢認識の下、リスクを読み、構造を理解し、依存関係を設計し直すことだ。今回のホルムズ危機は、GX時代の企業にとってその必要性を改めて突きつける出来事と言えるだろう。
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