<コラム執筆者>
前田 雄大 脱炭素専門エネルギーアナリスト (Green Innovator Project 実行委員会 アドバイザー)
9月23日に国連において総会が開催され、トランプ大統領が参加し、そこで演説を行ったが、その中で「地球温暖化はでっちあげ」であり、「世界史上最大の詐欺」と非難したことが話題となっている。そうした強い表現が話題を呼んでいるが、実はこの演説ほど気候変動や脱炭素に対するアメリカの本音をあぶりだしたものはなく、非常に見るべきところが多い内容となっている。まずは、トランプ演説の論調を見ていきたい。気候変動以外にも移民政策や関税などにも触れ、話題が変わってはまた戻るを繰り返した演説だが、そのとびとびの中身を見ていくと要旨はおおよそ次のようなことを述べている。
「再エネは高いし、役に立たない、ドイツを見てみろ、彼らは化石燃料回帰することで成功したじゃないか。再エネの世界はCO2を出しまくりながら中国が風力のタービンを売って儲けているだけだ。そもそも気候変動について、国連も科学者もちゃんと説明できていない。グリーンビジネスは詐欺なんだ。詐欺に騙されるな。だって、そうだろう気候変動を信じてCO2排出削減した欧州の経済は失敗したじゃないか。だから、パリ協定はダメなんだ。化石燃料が成功する鍵なんだ。その点、見てみろ、アメリカはエネルギーで成功している。そのアメリカを見習いたまえ。そしてアメリカには世界最大の化石燃料資源がある。そしてアメリカは世界に輸出できる。貢献できる。だから、いますぐ、脱炭素などやめろ。目を覚ませ。そして、アメリカを頼れ。」
このように要約すると、トランプ政権がもっとも持っていきたい結論に向かって、論法がきれいに組まれていることが分かる。その結論とは「世界はアメリカを化石燃料で頼れ」というものだ。気候変動はでっちあげや、グリーンビジネスは詐欺だというのは、そこにもっていくための訴えやすい標語に過ぎない。それは過去に実はトランプ氏が気候変動対策に賛同していたことがあるというファクトからも伺える。
では、なぜこのような主張をするのか。脱炭素が生じると何がまずいのか。これも分かりやすく演説の中で材料を散りばめてくれている。そのうちの一つはチャイナリスクだ。エネルギーは国家安全保障につながる大論点であるが、GXの流れで再エネや蓄電池がその主軸を今後になっていきそうとなっている中、そのサプライチェーンはだいたいどこで切り取っても中国にお金が落ちるほど、中国の支配率が高い。すなわち、アメリカのエネルギーサプライチェーンがライバルである中国に依存せざるを得ない条件が現状整っている。これはアメリカとしては推進できない。
それに加えて、アメリカは目下、原油、天然ガスで世界第一の生産国となっており、また石炭に関しては埋蔵量が世界一の化石燃料大国となっている。もし、脱炭素を世界が推進した場合は、アメリカは自国のこのアセットを棄損することになり、輸出を通じた外貨獲得や諸外国へのレバレッジを失うことになる。そして、最悪本当に脱炭素が国際標準ルールとなった日には、自国すらこの資源に頼ることができなくなる。それは是が非でも避けなければならない。
大きくはこの2つの理由からアメリカにとって、脱炭素は国益に反するという判断が共和党政権ではなされている。それを単に過激な表現を用いてトランプ大統領が表現しただけで、隠しきれないアメリカの国としての本音がここにある。こうした力学を踏まえて、アメリカの今後の動向を踏まえた場合、世界の脱炭素が数年どのように推移するかも見えてくる。
物事の潮流を考える上では、背景にある力学を正しく理解する必要がある。そうした観点で、今回の国連演説は出色であった。ぜひ皆様のGX認識形成の中でもこちらの分析を役立てていただきたい。
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