2022年3月14日に開催されたGreen Innovator Forum。学生、若手官僚、起業家、有識者など様々な立場の人が、グリーンイノベーションの創出に向けて議論しました。
パネルディスカッションは全5回。1回目のテーマは「Climate Ambition 2050-大局を捉える」でした。
2050年の未来を考え、どう行動するべきか。改めて「今」を捉えなおし、大局に目を向けるとともに、本フォーラムの対話の意味を確認しました。
ファシリテーター:
菅原聡:一般社団法人Green innovation 代表理事
パネリスト:
石井菜穂子 東京大学理事・グローバル・コモンズ・センター ダイレクター
程近智 ベイヒルズ株式会社代表取締役
蛭間芳樹 株式会社日本政策投資銀行 産業調査部兼サステナブルソリューション部 ほか
大河原優希 早稲田大学文化構想学部 Green Innovator Academy1期生
石井:
東京大学のグローバル・コモンズ・センターでダイレクターをしています。人類共通の資源である地球をどう守り、次世代につないでいくのかという研究をしています。
40年前に大蔵省に入った後、IMF(国際通貨基金)や世界銀行などの国際機関に所属していました。印象に残っているのは、2012年から約10年間勤めた「地球環境ファシリティ」のCEOです。環境問題を学ぶ中で、「日本にいるときに、環境問題の重要性に気が付けなかったこと」にショックを受けました。それは日本と世界で報道されている内容が全く異なることが関係していると思います。意識的に情報を取捨選択しなければ、偏った情報の中で情報を収集することになりかねません。
程:
40年間、アクセンチュアで働いていました。現在は主に4つの仕事をしています。
1つめは、企業の社外取締役、顧問といったビジネスセクターでの仕事。2つめは、大学で教えること。3つめは、LP投資家としての、企業に対するアドバイスや投資活動。4つめは、ソーシャルセクターとしての活動で、今日のように講演をしたり、様々な財団の理事をしたりしています。
蛭間:
色々な仕事をしていますが、主に日本政策投資銀行で働いています。
「金融力で未来をデザインする」というのが日本政策投資銀行のミッション。私のミッションは、「金融を使って災害に強い、サステナブルで、ウェルビーイング(幸福)な社会を作ること」です。
パリ協定が現在話題になっていますが、その前は1997年に採択された京都議定書が有名でした。また、2003年に日本政策投資銀行が、環境に配慮している企業を選定し融資する環境配慮型のファイナンスを開発しました。このように、日本が気候変動対策に関して国際社会を牽引している時代もあったんです。しかし、現在は、ESGなどのサステナブルファイナンス(持続可能な社会と地球を実現するための金融)を全てヨーロッパに制度設計されてしまいました。悔しいです。
大河原:
早稲田大学文化構想学部に所属し、気候変動と政治イデオロギーに関する研究をしています。Green Innovator Academy1期生で、若い世代としての意見を言いたいと思います。
石井:
現在の地質時代は「完新世」と呼ばれています。完新世は1万2000年。この間に温暖な気候が安定したことによって、農耕が始まり、人々は都市に住むようになり、そして現代の経済成長につながっています。つまり、この類い稀な気候に支えられて、経済成長を遂げてきたわけです。しかし、現在は経済社会システムと地球システムが衝突してしまっており、気候変動が起きています。
地球環境を維持するためには、食料システム、都市の住まい方などといった経済、社会のシステムを変えていかなければいけません。このとき重要なのが、ジャストトランジッション(公正な移行)です。経済、社会システムの移行には、大規模な設備の廃棄や失業などの様々なリスクが伴います。こうしたリスクを最小限に抑え、公平・公正に移行していくことが重要です。
次に、COP26の話をします。
色々有意義な決定がされた会議でした。例えば、気温上昇を「1.5度」に抑える努力をすることが国際目標になり、自然と私たち人間の関係を捉えなおそうとネイチャーポジティブが議論されました。サステナブルに暮らしていくための道筋を真剣に話し合っていましたね。
国同士の合意だけでなく、ビジネス面でも様々な取り組みがあって、面白いと感じました。日本のCOPの報道だけを見ると、「COPは失敗した」というような印象を受けるかもしれません。そのため、日本と世界の両方の報道を見て、自分の考え方を持つことが大事です。
大河原:
カーボンニュートラル達成までの道筋の議論が活発に行われています。その一方で、達成した先の話が十分にされていないのではないかと感じます。2050年以降に、社会がどうありたいのか。そこに関してどう考えていますか。
石井:
経済を縮小していけば、カーボンニュートラルを達成できます。ですが、そういうことではなく、サステナブルな経済や社会に変えていき、ハッピーな2050年を目指しているのです。地球と経済の関係を捉えなおし、きちんと転換できれば、生きていて楽しく素晴らしい社会になれると考えます。
蛭間:
そういうことを考えた方がいいですよね。というのも、カーボンニュートラルは手段です。では、目的は何か。ご指摘の通り、まだしっかりと議論されていません。
「1人ひとりが生きたいように生きられるように脱炭素社会を目指す」。それに尽きると思います。
蛭間:
2021年9月末に開催された「持続可能な開発インパクト・サミット」で話されたことについて話します。
まず言いたいのは、このような国際会議によばれる日本人が非常に少ないこと。約2500人が会議に参加していて日本人は約10人。絶滅危惧種ですよ。どうにかしないと。
会議では、貧困や紛争、気候変動といった人類が直面している課題をビジネスの力でどう解決するか議論されました。国境を超え、世界で協力して課題を解決しようとしていますね。
必要なのは「社会的な価値と経済的な価格の見直し」です。例えば、コロナ。自分たちの罹患のリスクもあるエッセンシャルワーカーに払われている給料は適切だと言えるでしょうか。このように現在は、社会的な価値と経済的な価格が乖離しすぎてしまっています。経済システムだけを追求してしまっては、間違った方向に向かいます。「経済的な価格と社会的な価値の見直し」は早急に取り組むべきことです。
最後に「Trust or ZERO trusted」を共有します。今、重要なのが、「信頼」という価値観。ビジネスにおいても国交においても、「信頼」という評価基準が厳しくなっています。ZERO trusted(信頼できない)となったら、人権や環境、何から何までひたすら調べられてしまいます。日本には「信頼できる国」であってほしいと思いますね。
程:
日本企業は約10年前から、行動に移せていなかったことがあります。ESGです。そのため、海外からは、「信頼できそうだがパフォーマンスが悪い」と言われてきました。現在は取り組んでいますが、未だにガバナンス(G)がしっかりできていない中、環境(E)や社会(S)の取り組みもしなければならず、経営者は頭を抱えています。また、企業は3か月に1回、株主に業績報告などをしなければならないのですが、この3か月の成果とサステナビリティの両立に苦労しています。
企業にとって重要なのが、株主や銀行、政府資本といった金融セクターの存在です。環境を重視する人、リターンを重視する人など投資家も様々です。どんな投資家に出資してもらい、イノベーションを起こすのかといったことも考えなければいけません。
現在、経済界はたくさん考えることがあって大変です。
大河原:
では、パブリック側にはどのような難しさがあるのでしょうか。
例えば、アメリカでは400兆円規模の予算をバイデン大統領が公約として掲げましたが、可決された法案は規模が縮小されてしまいました。日本で環境政策を施行する際の難しさや障壁はどういったところにありますか。
蛭間:
予算が日本は少ないですね。日本は、GXリーグのように民間企業の活力やイノベーション力を期待した環境政策が多いです。
また、欧米諸国は、環境問題は全省庁に関わることなので、予算や権限を持った気候変動庁といった省庁が環境政策を担っています。一方で、日本は環境省が担当しており、予算や権限が少し弱いことも課題だと思います。
大河原:
2050年カーボンニュートラルをどう達成するのか、何のために達成するのかといったことを市民も含めて議論していかなければならないと思いました。今日、この場がその一つだと感じました。
蛭間:
世界経済フォーラムで話し合われた「国力」を共有します。国力は産業・経済力と危機管理力を掛け合わせたものです。リーマンショックから5年後の2014年の国力を見てみると、日本は経済力は高いですが、危機管理力がとても弱いです。今、世界の国々は「経済力」を高めるのではなく、「危機管理力」を高めようとしています。そのために、新しい産業政策や都市を国をあげて作っているのです。日本の国力は、5年後どうなっているでしょうか。世界の国々に対抗できるような国になっていきたいですね。
今日、若い世代と接点を持てたことにとても大きな意味がありました。このフォーラムの継続性に期待します。
程:
メッセージが2つあります。
1つめは、自分なりの視点を持ってほしいということです。報道を見る目や、人付き合いなど、色んなことにおいて自分なりのレンズを持ってください。
2つめは、行動し続けてほしいです。
「こうしたいけど無理だ」「会社の仕事が忙しくてできない」。理想の方向に行かず、忸怩たる思いをすることがたくさんあるでしょう。しかし、負けずに行動、小さくても行動してください。それが自分の満足だけでなく、世界の一歩につながります。
この2つを日々心掛け、頑張ってください。
石井:
国力に関して、蛭間さんと少し違う意見を持っています。国力とは、「世界のルールをどこが決めるか」だと考えます。ESGやISSB(国際サステナビリティ基準審議会)といった制度設計をヨーロッパにされてしまったという話がありましたね。制度設計をリードする力があるかが国力を決めるのではないかと思います。
最後に、市民の役割について。市民の議論が盛んな欧米諸国は気候変動対策に勢いがあります。一方で、日本は国民による議論ができているとは言い難いと思います。選挙の際に、政治家に気候変動対策は何かと聞いたことはありますか?商品の環境負荷はどれくらいかと企業に質問したことはありますか?
市民1人ひとりの力で動かせることはたくさんあります。私たちが声を上げることによって、よりよい社会を作っていくことができます。頑張りましょう。
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