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山田唯人にZ世代のグリーンイノベーターが聞く、カーボンニュートラルと食農分野の今

山田唯人にZ世代のグリーンイノベーターが聞く、カーボンニュートラルと食農分野の今

気候変動への対応として、世界各国が「脱炭素」を目指して動き出しています。

日本政府は、2020年10月に「2050年 カーボンニュートラル実現」の目標を掲げました。そして同年12月に上記に基づいて策定されたのが、民間企業の大胆なイノベーションを促し、新しい時代に向けた挑戦を応援する「グリーン成長戦略」です。

政府はこの戦略策定にあたり、「温暖化への対応を経済成長の制約やコストとする時代は終わり、成長の機会と捉える時代に突入した」としており、カーボンニュートラルの実現に必要なイノベーションを起こし、それが日本の成長の源泉となる「経済と環境の好循環」を目指しています。

こうした流れの中で立ち上がったのが、将来を担うグリーンイノベーターを育成するプログラム『Green Innovator Academy』です。2021年10月に開始されたこのプログラムでは、毎年100名の社会を変える意欲ある学生たち、そして30人の若手社会人が選抜され、半年間かけて講座やフィールドワークを通してイノベーターに必要な能力を習得していきます。

今回は、プログラムに参加する学生たちが、アカデミー講師であるマッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナー/サステナビリティのアジアリーダーである山田唯人さんに、カーボンニュートラルにおける食農分野の位置付けや、将来世代に期待することなどについてお話を伺いました。

食農の危機とカーボンニュートラルに与えるインパクト

カーボンニュートラルと聞くと、化石燃料からの脱却や、再生可能エネルギーの導入といったことがまず頭に浮かぶかもしれません。しかし実は、食農分野の持つインパクトも非常に大きいことをご存じでしょうか。

農業や畜産から排出されるメタンやCO2といった温室効果ガスは、全産業の27%を占めています。さらにその排出量は、世界の急速な人口増加やそれに伴う食料消費量、また食生活に占める動物性タンパク質割合の増加などにより、増え続けています。

一方で、気候変動が農業へ与えるリスクも年々高まっています。気温の上昇や降雨パターンの変化、干ばつ、熱波といった自然災害は、農作物の生産量に直接的な打撃を及ぼします。さらに、不適切な農業習慣が侵食や地質の低下、土地の砂漠化などを引き起こし、世界中の農地の荒廃が進んでいます。

2030年には世界人口が85億人に達し、今後20年間の農作物需要が約1.5倍膨らむと予想される中、農業や食の供給を持続可能なものに変えていくことは不可欠です(※)

※ マッキンゼーが読み解く食と農の未来 日本経済新聞出版、2020年8月

山田さん「ここ数年で、金融業界はサステナビリティに向けて大きく進展しました。新しい融資の話の中にサステナビリティのテーマが入らないことはほぼありませんし、融資先企業の脱炭素化を積極的にサポートするようにもなりました。これは数年前には想像できなかったことで、大きな変化の波が起こっているのは間違いありません。

ただ、進んでいるのは自動車やエネルギーといったセクター。グローバルな大手の金融機関でも、農業に関する目標設定ができている金融機関はまだありません。

というのも、 エネルギーの分野では政府の出している『エネルギー基本計画』がひとつの指針になりますが、農業の分野にはまだそういったものが存在しないからです。

世界の中でも先を行くヨーロッパは2019年に欧州グリーンディール政策の中で『Farm to Fork(農場から卓まで)』という戦略を策定しています。しかし、皆で一斉に取り組みを実行していく段階に向けてはまだまだ課題が多いのです」

山田さん「一方で、微生物などの『バイオ素材』から農薬や肥料を作る技術は近年急速に発展してきており、世界中でイノベーティブなスタートアップが次々と立ち上がってきています。バイオ市場は、今後も毎年10%近く成長していくと予想されている。これは世界にとってグッドニュースと言えます」

昨今、世界中の企業がゲノム編集技術を用いた作物の実用化や、生物由来の成分から作られる「バイオ製剤」の開発に取り組んでいます。

日本では、藻の一種であり、栄養価の高いユーグレナ(ミドリムシ)を加工し、バイオ燃料やヘルスケア商品などを開発する株式会社ユーグレナや、同じく栄養価に優れた藻の一種である生スピルリナを加工した食品「タベルモ」を販売するベンチャー株式会社タベルモといった企業が、この分野で注目を集めています。

カーボンニュートラル達成には、需要側の行動変容が欠かせない

急速な市場の成長やイノベーティブなスタートアップの登場といった供給サイドの変化は、食農分野のカーボンニュートラル達成に向けた大きな希望と言えます。しかし、「それだけではこの分野でのカーボンニュートラルの達成は難しい」と山田さんは説明します。

山田さん「マッキンゼーで行った研究によると、世界中の供給側が持つ最先端テクノロジーのインパクトを全て合わせてもパリ協定の1.5度シナリオを達成することは難しいとされており、そのギャップは需要側で埋めなくてはいけません(※)

・Reducing agriculture emissions through improved farming practices

具体的には、世界中の牛肉消費量を50%程度減らし、鶏肉も含む代替的なたんぱく質に移すこと、そして食品ロスを同じく世界中で50%減らすことが必要です。

つまり、2050年までにカーボンニュートラルを達成するためには、需要側の大胆な行動変容が欠かせないということです」

植物性代替肉の市場規模は2027年には123億2,000万ドルに達するとされており(※)、海外では植物性代替肉を開発する『Impossible Foods』や『Beyond Meat』といったスタートアップが急成長しています。

日本でも、植物性肉開発を行う「グリーンカルチャー」や「ネクストミーツ株式会社」、次世代のタンパク源としてコオロギを活用した食品を開発する徳島大学発のベンチャー『株式会社Gryllus』、サラブレッド化したイエバエを活用したバイオマスリサイクル、飼料や有機肥料開発を行う株式会社ムスカといったイノベーティブなスタートアップが次々と立ち上がっています。

※ 植物性代替肉の市場規模、2027年に123億2,000万ドルと予測

また、フードロスの削減を目指すスタートアップも注目を集めています。

その一例が、規格外野菜や訳あり加工食品、余剰食品などを一般消費者に安価で販売する「KURADASHI」や「ロスゼロ」「tabeloop」といったWEBプラットフォームです。また、廃棄予定の野菜を衣服などの染料として活用するブランド『foodtextile』なども、新しい取り組みと言えます。

山田さんは、需要側ができることとして、私たちが日々口にしている食品についてよく知ることも重要だと言います。

山田さん「普段食べている食材、特に海外から輸入している食材がどのように環境や社会に影響を与えているのかを知ることが重要です。日本は食料供給の大部分を輸入に頼っており、それらの食品のESGにおけるレーティングは、国産のものより低い傾向があるからです。

例えば、パンやお菓子といった私たちの身近な食品にも入っているパーム油はさまざまな環境破壊を引き起していますし、ブラジルでは、大豆や牛肉の一部が森林伐採を伴って生産されています」

その生産性の高さから世界中で食品から化粧品、日用品にまで幅広く利用されるパーム油ですが、世界のパーム油生産の85%を占めるインドネシアとマレーシアでは、1990年から2010年までに約360万ヘクタールの熱帯林がアブラヤシ農園に転換され、さらにアブラヤシ農園の劣悪な労働環境なども問題となっています。

 

山田さん「ただ、だからといって、食材を全て日本で作れば良いという話ではありません。

大豆や小麦、また食肉類など、日本では需要を満たす必要な分量を生産することができない食材もたくさんあるからです。それらは今後も、アメリカやオーストラリアといった国々からの輸入に頼るしかありません。

ですから、やはり一般消費者が食材について正しい判断をできるようにするための情報がもっと共有されたうえで、消費側は環境や社会に与える影響が少ないものを選んで買い、そうでないものは買わないという選択をすることが大事です。

そういった需要側の行動変容に関しても、グリーンイノベーターの皆さんにぜひ取り組んでいただきたいですね」

パーム油については、国際非営利団体RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)

により、環境や地域社会に配慮した持続可能なパーム油を認証する「RSPO認証」がついたものを選ぶことも、消費者としてできることのひとつです。

サステナブルライフクリエイターとして、自身も6年近くヴィーガンを実践しながら環境問題や社会問題についてSNS等で発信を行う前本美結さんは、そんな「需要側の行動変容」の難しさを感じていると言います。

前本さん「私は自身の活動を通し、まさに先ほど山田さんが仰った『需要側の行動変容』を促そうとしているのですが、自分の力だけではどうにも巻き込める人数には限界があるなと最近感じていて……。気候変動が刻一刻と進む中、どうすればより多くの人を巻き込めるでしょうか」

山田さん「食生活をヴィーガンに変えるのは間違いなく環境にも健康にも良いことですが、一般的な消費者にとっては結構ハードルが高いのではないでしょうか。

また、日本においては、国内でそこまで多くの牛肉を生産しているわけではないので、脱炭素化に向けて食肉の消費量を減らすことが一番大きなインパクトを持っているわけではありません。むしろ、自動車や家で使うエアコンからのCO2排出量の方が、実は大きいのです。

ですから、CO2排出量の大きさと行動の取り組みやすさをマッピングし、実行しやすいものから勧めていってはどうでしょうか。例えば車を持たずに公共交通機関をできるだけ使ったり、車を持つのであれば電気自動車にしたりする。また、少し家賃が高くても断熱構造がしっかりした家に住むようにし、エアコンの使用量を抑えるといったことも効果的ですね。

そんな風に、食以外にもカーボンニュートラルを推進するためには様々な方法があります。また、それぞれのライフスタイルに合った方法を選ぶことが何より大事です」

日本やアジアなりのサステナビリティを目指して

水素社会実現に向けた研究を行う大学院生の重政海都さんは、「日本らしいサステナビリティ」の実現について山田さんに尋ねました。

重政さん「SDGsが世界中で叫ばれるようにはなりましたが、 発信の主体は本部がヨーロッパにある国連ですから、やはりその地域とのシナジーは高いと感じます。ドイツに住んだ経験からも、彼らが生来持っている価値観とSDGsにはとても近いものがあるなと感じました。

一方で、日本は、そこにただ追随するだけで良いのでしょうか。日本ならではのサステナビリティの作り方について、教えてください」

山田さん「まず、企業という観点で見てみると、例えばトヨタの車は、ヨーロッパ産のものと比較してずいぶん前から省エネの観点で技術的に優れています。

また、iphoneの部品や再生可能エネルギーの電池などといったニッチな分野の技術においては、日本企業は十分な競争力を持っています」

2021年版「エネルギー白書」によると、政府のグリーン成長戦略で取り組むべきとされている14の重要分野のうち、日本は「水素」「自動車・蓄電池」「半導体・情報通信」「食料・農林水産」の4分野における脱炭素技術の知財で首位を獲得。また、「人工光合成」の分野では、日本の企業・研究機関が上位5位を独占し、他国を大きく引き離して優位に立つ結果となっています(※)

※ 「知財」で見る、世界の脱炭素技術(前編)

「また、消費の仕方に着目してみても、日本には海外にはない特有の素晴らしい概念や文化があります。例えば、『もったいない』『おすそわけ』といった概念。また、賞味期限を延ばすための加工方法である、お漬物の文化もそうです。日本の食文化にはもともとサステナビリティが詰まっているんです。

そういった、日本が長年培ってきた『日本らしい消費の仕方』を海外に発信していくと、『日本食=サステナブル』といった認識が世界に広まるかもしれませんし、それは結果的に日本の産業にとってもプラスに働くと思うのです」

さらに山田さんは、「アジア圏の国々との対話も必要」と続けます。

「現在、ヨーロッパの『EUタクソノミー』のアジア版を作ろうという動きもあります。そういったときに生きてくるのも、やはりアジア圏に実際に行ったことがあり、そこにいる人たちと話したことがある人の意見です。

ですから、今後の若い世代にはベトナムやインドネシアといったアジア圏の人たちの声もしっかりと聞き、その状況を理解したうえで、包括的なカーボンニュートラルの進め方を議論していくことを期待したいですね。

最終的には落とし所を見つけて、何かしらの結論を出さなければいけないことはもちろんあります。でも、そこに至るまでにどのくらい包括的な視点持って議論したのかどうかで、その後が大きく変わってくると思うのです」

大事なのは、発信する仲間を増やすこと

需要側の行動変容をリードすることや、アジア圏と対話の場を持つこと。これらに加え、最後に山田さんは将来世代に期待することを話してくださいました。

「私は日頃から、自分から発信の場を探り、アウトプットの機会を強制的に作るようにしています。例えば、数か月に一回、社内でウェビナーを開催したり、海外に出張する際には何かしらプレゼンの機会をもらえるように会社に打診したり。カンファレンスに出席する際にも、必ずそこで質問をするようにしています。ちょっと辛いのですが、これが僕にとっては結構良い学びの場にもなっていて。

でも、実はそれらは私一人でやっているわけではなく、共感する仲間と助け合いながらやっているんです。

先ほど、ひとりでは巻き込める人数に限りがあるという話がありましたが、だからこそたくさんの人たちに、一緒に行動や発信をしてもらうということが大事です。

自分が率先して前に出続けることも大事ですが、それと同時に一緒に発信をする人たちをどんどん増やしていくことで、インパクトは大きくなっていくのではないでしょうか。

私は、サスティナビリティに関わるこの仕事に、本当に楽しく取り組んでいます。自分がやりたいことを、楽しみながらやり続けること、そしてそれを仕事にすることが大切だと思いますので、皆さんにもぜひ、そうなっていただきたいですね」

山田唯人(やまだ ゆいと)
2010年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京オフィスに入社。ロンドンオフィスを経て、現在サステナビリティ研究グループのアジア・リーダーを務める。主に資源分野(食糧・農業・水・ケミカル分野)の課題に取り組み、日本の農産物の生産性向上・環境技術の新興国参入戦略や、公的セクター、経済成長とGreen Growthの両立を目指す特区の設計などをアジアで行う。ダボス会議を主催する世界経済フォーラム(WEF)の2022年ヤング・グローバル・リーダー(YGL)選出。一般社団法人Green innovationアドバイザー。共著書に、「マッキンゼーが読み解く食と農の未来」。

 

Green Innovator Academy

一般社団法人Green innovation主催で2021年にスタートした、2030年までに1000人のイノベーターを育てる人材育成プログラム。現役学生100名、若手社会人30名が選抜され、オンライン講座や現地フィールドワークなどを通し、半年間かけて気候変動やエネルギーを取り巻く世界情勢などを学び、リーダーシップやセクターを越えた協働に必要な能力を習得していく。

※インタビュアー:重政 海都さん(横浜国立大学大学院 博士2年)、山田唯人さん、前本 美結さん(上智大学総合グローバル学部 大学4年)

編集協力:

「IDEAS FOR GOOD」(https://ideasforgood.jp/)
IDEAS FOR GOODは、世界がもっと素敵になるソーシャルグッドなアイデアを集めたオンラインマガジンです。海外の最先端のテクノロジーやデザイン、広告、マーケティング、CSRなど、幅広い分野のニュースやイノベーション事例をお届けします。

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