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2050年、脱炭素社会へ 最前線を語る -Building Tomorrow’s Energy System-カーボンニュートラルと安定供給-(Green Innovator Forum セッションレポート)

2050年、脱炭素社会へ 最前線を語る -Building Tomorrow’s Energy System-カーボンニュートラルと安定供給-(Green Innovator Forum セッションレポート)

2022年3月14日に開催されたGreen Innovator Forum。学生、若手官僚、起業家、有識者など様々な立場の人が、グリーンイノベーションの創出に向けて議論しました。
パネルディスカッションは全5回。2回目のテーマは「Building Tomorrow’s Energy System-カーボンニュートラルと安定供給-」でした。
持続可能なエネルギーへの転換には時間がかかります。生活と経済の基盤を支えるエネルギーの安定供給に、どのように取り組んで行くのか。最前線で取り組む企業や関係者による対話を行いました。

ファシリテーター:
伊藤元重 東京大学名誉教授 学習院大学国際社会科学部教授(開催時)
パネリスト:
武本登 経済産業省資源エネルギー庁電力基盤整備課・課長補佐(火力・燃料・水力・金融等)
澤田康佑 株式会社JERA経営企画本部企画部コーポレート戦略ユニット・Green Innovator Academy 社会人1期生
柳生田英徳 株式会社INPEX 再生可能エネルギー・新分野事業本部 新分野事業ユニット・Green Innovator Academy社会人1期生
鳥井要佑 東京大学大学院 農学生命科学研究科・One Earth Guardians育成プログラム2期生・一般社団法人SWiTCH Youth Advisory・Green Innovator Academy1期生

エネルギー安全保障 難しい課題

伊藤元重氏

伊藤氏の話から始まったディスカッション。Green Innovator Academy1期生の鳥井氏は学生の立場から、鋭い質問を投げかけました。

伊藤:
2020年10月に菅総理(当時)が「2050年年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と所信表明演説をしました。一方、昨年に(アメリカで)バイデン政権が発足したこともあり、2020年10月以前の状況に比べると大きな変化があったと感じています。大きな目標に向かって取り組み始めてみると難しい課題があり、達成に至らないことがあるのです。そのため「どのように達成するか」の議論が重要です。
エネルギー問題の難しさは、2つ。エネルギーが経済のあらゆるところに影響を及ぼすところ。そして安定供給を維持しないといけないところです。東日本大震災で「計画停電」を経験しましたが、停電しないよう需給バランスを調節するのは難しいです。また、脱炭素化を目指すことによる物価の上昇、「グリーンフレーション」が問題になっています。

武本:
経済産業省の資源エネルギー庁電力基盤整備課という部署で安定供給の担当をしています。
政府は「2030年度に温室効果ガスを(2013年度から)46%削減し、2050年にカーボンニュートラルを達成すること」を目標に掲げています。そして、エネルギー政策を大幅に見直しました。
電源構成に占める再生可能エネルギー(再エネ)の割合を、現在の2倍以上にします。再エネは出力制御が難しい電源なので、出力調整が比較的容易な石炭や天然ガスを燃料とする火力発電に頼らざるを得ません。
地政学的リスクを考えてエネルギーの安全保障を確保する必要があります。例えば、ウクライナとロシアの情勢を受けて、ロシアの天然ガスに依存していたヨーロッパから日本のLNGを融通してほしいと依頼が来ています。ドイツは「脱原発・石炭」の方針を見直していますが、石炭をいきなりゼロにすることや、天然ガスだけに頼ることは、資源に乏しい日本は安定供給の観点からできません。

新技術を海外展開 成長へのチャンス

鳥井要佑氏

鳥井:
東京大学大学院で植物の栄養を研究しています。環境問題やエネルギー、消費者の価値観など様々なことに興味があります。
武本さんのお話を聞いて、2つ質問があります。
1つめは、カーボンニュートラルへの転換をどう捉えているか。気候変動対策はどの国も同じように取り組む必要があると考えます。日本政府として脱炭素の転換を成長へのチャンスと捉えていますか、それとも責任感で取り組んでいますか。
2つめは、エネルギーの需要について。CO2排出量を削減するために電源構成を変えるという話でしたが、電力需要そのものを減らす取り組みは考えていますか。

武本:
「成長へのチャンス」と考えています。日本は、脱炭素のための技術開発に力を入れています。例えば、アンモニア混焼や水素混焼による火力発電の脱炭素電源化、CCS(カーボンキャプチャーストレージ、炭素回収貯留)。こういった技術を東南アジアなど他国に対しても展開し、日本企業の新しいビジネスや成長につなげます。
「需要」の視点は重要ですね。省エネは政府の方針ですし、これからも力を入れていきます。一方で、デジタル化やCO2削減のための電化により電力需要が増加することも考えられます。

伊藤:
責任か成長かというのは大事な論点です。
気候変動問題は産業社会が温室効果ガスを排出し続けた結果なので、大規模な市場の失敗です。規制や企業や個人の自主的な努力だけで解決するのは難しいので、市場の力を借りて是正していくべきです。そのためにグリーンファイナンスやカーボンプライシングなどの仕組みがあります。

JERAゼロエミッション2050 3つのアプローチ

続いて、株式会社JERAで働く澤田氏が、2050年にカーボンニュートラルを達成するためにJERAではどんな取り組みを行っているのかを共有しました。

澤田康佑氏

澤田:
株式会社JERAの経営企画本部コーポレート戦略ユニットに所属しています。
JERAは燃料の開発や国内外での発電、電力・ガス販売までサプライチェーン全体を担っている会社です。世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供することを目指しています。
2050年に国内外の当社事業から排出されるCO2をゼロにする「JERAゼロエミッション2050」という目標を掲げています。3つのアプローチがあります。1つめは、再エネとゼロエミ火力の相互補完。再エネは自然条件によって発電量が大きく変動するという欠点があるので、発電時にCO2を排出しないゼロエミ火力で補います。ゼロエミ火力はよりグリーンな燃料を導入することにより実現します。2つめは、国・地域に最適なロードマップの策定。国や地域によって地理的条件やインフラの整備状況が違うので、必要な電源構成も異なります。最適なソリューションとロードマップを策定し、実装の支援をします。3つめは、スマート・トランジションの採用。目標達成のためには、技術革新が必要です。ですが、イノベーションを待つのではなく、できることから確実に実行します。
2025年、2030年に向けて行なっていることを話します。2030年までに非効率な石炭火力をすべて停止または廃止します。高効率な石炭火力は、アンモニアの混焼率を拡大していきたいと考えてます。また洋上風力を中心に再エネの開発を進めています。2025年に再エネの電源を現在の約5倍にするのが目標です。
「JERAゼロエミッション2050」を達成するには技術的な課題がたくさんあります。サプライチェーン全体を担うことで培ってきた強みを生かして取り組んでいきます。ですが、私たちだけでは達成できないので、様々なステークホルダーと協力して世界のエネルギーの脱炭素化を牽引・貢献していきたいです。

火力発電 国民の声に耳を傾けて

鳥井:
2つ質問があります。
1つめは、武本さんへの質問と同じですが、カーボンニュートラルをどう捉えているか。越えなければならない高い壁か、チャンスと捉えているのかどちらですか。
2つめは、国民とのコミュニケーションについて。火力発電への風当たりが強いと思いますが、国民の意見にどう対応していますか。

澤田:
カーボンニュートラルはチャンスと捉えています。日本でカーボンニュートラルが実現できれば、同じように島国のフィリピンやインドネシアといったアジアの国々にソリューションを提供することができ、ビジネスになります。
火力発電に対する国民の意見は届いています。私たちが何をもとに、どう考えているかを共有したり、国民が考えていることに耳を傾けたりしながら議論していくことが重要だと思います。

武本:
火力、原子力への厳しい声はたくさんあります。再エネを導入すればよいとという意見もありますが、天候などの条件によって出力が大幅に変わる再エネだけで安定供給するのは難しいのです。こういった考えを共有し、議論することが必要だと思います。

INPEX ネットゼロ5分野に注力

株式会社INPEXで働く柳生田氏。INPEXは石油や天然ガスを扱う会社です。2050年カーボンニュートラル達成、そして安定供給のためにどんな取り組みをしているのでしょうか。

柳生田英徳氏

柳生田:
株式会社INPEXの再生可能エネルギー・新分野事業本部新分野事業ユニットに所属し、再生エネや脱炭素関連の新しいビジネスの開発をしています。
INPEXは石油・天然ガスの探鉱や、再エネの開発を行い、電力・ガス会社、元売り会社、化学メーカーなどに販売している会社です。
カーボンニュートラルと安定供給に関して話します。INPEXは2030年ごろに目指す姿を、ネットゼロ5分野と石油・天然ガス分野の2つに分けて考えています。
ネットゼロ5分野とは、水素・アンモニアの生産・供給、石油・天然ガス分野のCO2削減、再エネ強化、カーボンリサイクル・新分野事業の開拓、森林保全の推進という5つの新しい取り組みで、実証や研究を着実に推進します。最大1兆円程度をかけて、2030年に営業キャッシュフローの1割程度を5分野に振り分けることを目指しています。
次に石油・天然ガス分野について。石油・天然ガスを安定供給するのは会社の使命であり、安全で効率的であることを徹底しながら、これからも安定供給をしていきます。
石油や天然ガスを燃やすと出てしまうCO2を、どう削減できるか。1つめは、天然ガスへの移行です。天然ガスは、石油を燃やすよりも比較的CO2排出量が少なく、またブルーアンモニアやブルー水素製造の原料にもなります。2つめはCCS。CO2を回収し、地中深くに貯留・圧入するCCSの拡大に取り組みます。

CSS(炭素回収貯留) 新たなビジネス

鳥井:
質問は2つです。1つめは同じく、カーボンニュートラルをどう捉えているか。
2つめは、技術開発に関して。カーボンニュートラル達成のためには技術やテクノロジーの発展が欠かせません。一方で、テクノロジーや技術の進歩を予想するのはとても難しいと思います。テクノロジーや技術開発に関してどう考えていますか。

柳生田:
カーボンニュートラルはチャンスでもありピンチでもあると捉えています。ピンチは、石油や天然ガスの需要が減っていく可能性があるところ。一方で、チャンスなのは、脱炭素関連の新しいビジネスが展開できるところ。例えば、これまではCO2を地中に埋めてもビジネスにはならなかったのが、CCSは今ではビジネスです。また、新しいエネルギー源になる可能性があるアンモニアや水素を供給できるようにしていきたいと考えています。
技術開発はコストが高いと進みませんし、1つの会社だけで解決するのは難しい問題です。海外の会社・スタートアップ、同業他社など色んな会社と協力して進めていくことが必要だと思います。

厳しい投資家の目 理解を得ながら

化石燃料を扱う企業に対する投資家の目が厳しくなっています。そんな中、企業はどのようなことを考え、どう取り組んでいるのでしょうか。

武本:
化石燃料に対する投資家の目は厳しくなっていますか。

柳生田:
はい。石油や天然ガスは、探鉱から実際に石油、天然ガスを供給できるようになるまで、非常に長い時間がかかります。オーストラリアのLNG事業は20年間かかりました。そのため、すぐにLNG事業を中止したり、簡単に供給量を変化させたりできるものではありません。そういった要素を考えながら、投資をしていただきたいです。

澤田:
石炭火力を新設したり運営したりするための資金を借りるときに、逆風が吹いてきていると感じます。ですが、ゼロエミ火力のために取り組んでいることを投資家の方々に共有することで、理解してもらい、安定供給に取り組むことができています。

伊藤:
温室効果ガス46%削減の達成目標は2030年度。今ある技術やテクノロジーでどう達成するかが重要になります。一方、脱炭素の達成目標は2050年で、新しいテクノロジーに対する期待感があります。
10年ほど前から資本主義の構造が変わってきています。キーワードは「創造的破壊」。つまり、既存のビジネスを壊して、新しいビジネスが出てくるというのが経済界で主流になっています。例えば、GAFAやマイクロソフトです。2050年に向けて、気候変動問題の新しい取り組みに期待します。
ところで、エクソンモービルは、INPEXと同じく石油を扱っている会社ですね。エクソンの株主総会で、脱炭素に積極的な取締役が3人選ばれました。INPEXでも何か変化はありそうですか。

柳生田:
はい。上場している会社なので、投資家の意見は大切です。
カーボンニュートラルや安定供給とのバランスをとりながら、国と一緒に会社の目指すべき姿を考えていきたいと思っています。

オープンイノベーション 他社と協力

パネルディスカッションを聞いていたGreen Innovator Academy1期生からも質問が飛び出しました。そして最後は、鳥井さんの感想で議論は終了しました。

武本登氏

Green Innovator Academy社会人1期生:
澤田さんと柳生田さんに技術開発の質問があります。脱炭素化のためのCCSといった技術開発は自社だけで取り組まれているのか、パートナーシップを結び取り組まれているのか。どちらですか。

澤田:
両方ですね。自社で全てをできるわけではないので、各社の得意なところを活かし、1つのチームとして取り組むことがあります。

柳生田:
国内外の研究機関、スタートアップと協力して取り組む必要があると思います。今までは自社の技術だけを頼りに開発を進めていくことが多かったですが、これからはオープンイノベーションという言葉があるように様々な会社と協力し、技術革新を進めていかなければなりません。

多面的な問題 消費者の協力も大切

Green Innovator Academy学生1期生:
アンモニアや水素といった脱炭素に関する技術を海外に展開するという話がありました。東南アジアの国々と協力して脱炭素化に向けて取り組むという風潮は世界にも広まっていますか。

武本:
広まっていません。ヨーロッパは、アンモニアや水素に関する技術開発の実現可能性に懐疑的だからです。
昨年、日本はAETI(アジアエネルギートランジションイニシアティブ)を立ち上げました。カーボンニュートラルに未だ取り組めていない東南アジアの国々のエネルギートランジションを支援していくためです。

鳥井:
経済学者、若手官僚、民間企業と様々な立場にある方に聞きたかったことを伺うことができ楽しかったです。安定供給とカーボンニュートラルというテーマは、多面的な問題であると理解できました。消費者も含めて、全ての人が関わっているエネルギー問題は協力して取り組んでいくことが大切だと思いました。

伊藤:
素晴らしいまとめですね。本日は活発な議論をありがとうございました。

 

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