2022年3月14日に開催されたGreen Innovator Forum。学生、若手官僚、起業家、有識者などが、グリーンイノベーションの創出に向けて議論しました。
パネルディスカッションは全5回。4回目のテーマは「Rebuilding the History of Energy-新エネルギーへの取り組み-」でした。
持続可能なエネルギー供給のためには、太陽光発電や水素発電、洋上風力発電といった新エネルギー分野での技術のイノベーションが欠かせません。
最前線で再生可能エネルギーの開発に取り組む方々がエネルギー転換への現状、課題、展望について議論します。
前田雄大 元外務官僚 脱炭素エキスパート・脱炭素メディアGXチャンネル発行人兼統括編集長
高須勲 株式会社東芝研究開発センターナノ材料・フロンティア研究所・トランスデューサ 技術ラボラトリーフェロー
福島暁光 株式会社JERA 事業開発本部国内洋上風力事業部
一芝省吾 三菱重工株式会社 エナジートランジッション&パワー事業本部GTCC事業部高砂サービス営業戦略部プロダクトラインマネジメントグループ・Green Innovator Academy1期生
重政海都 横浜国立大学大学院理工学府クリーンエネルギー変換研究室・Green Innovator Academy1期生
まずは、自己紹介です。
前田雄大氏
前田:
エネルギーと気候変動のオピニオンメディア「Energy Shift(エナジーシフト)」で発行人兼統括編集長を務めています。そこで「エネシフTV」というYoutubeチャンネルを運営し、脱炭素に関する発信をしています。
一芝:
三菱重工株式会社のエナジートランジション&パワー事業本部に所属しています。
これまでずっと海外向けの火力発電事業に携わってきました。現在取り組んでいるのはイギリスにおける火力発電所の燃料転換です。天然ガスから水素に変換します。再生可能エネルギーによる発電が増えていくと思いますが、再エネには天候によって発電量が左右されるという欠点があります。これを補うためには火力発電が必要です。天然ガスは発電時にCO2を排出するので、水素に変えるのです。
高須:
東芝に入社して以来、有機半導体材料・デバイス開発に関わってきました。
現在はフィルム型ペロブスカイト太陽電池の開発をしています。折り曲げることができ、軽いという特徴があります。従来のものは、重さと形状の面から設置場所が限られていました。ですが、開発した太陽電池は、これまで設置できなかった東京ドームのような曲面を描く屋根やビルの壁に設置することができます。都市部でも展開できるという、この強みを活かし、太陽光による発電量を増加させていきたいです。
前田:
フィルム状の太陽電池。イノベーションを感じますね。
福島:
株式会社JERAの事業開発本部国内洋上風力事業部に所属しています。
JERAのミッションは、「世界に最先端のソリューションを提供すること」。CO2を排出しない火力発電や再生可能エネルギーを開発し、脱炭素社会実現に貢献します。
私が担当しているのは再エネ分野、特に洋上風力発電です。大規模な火力発電を通じて培ってきた知見や海外の洋上風力を参考にしながら、国内における洋上風力発電を開発しています。
前田:
プロ野球を見ているときに、よくJERAのCMを目にします。
重政:
横浜国立大学の大学院で水素利用の研究を行っています。
私には「日本のエネルギー自給率を100%にする」という目標があります。そのために、博士課程への進学やドイツ留学をしました。
脱炭素に向けた日本企業の取り組みが加速しています。技術開発に取り組む人は、どんなロードマップをを描いているのでしょうか。
一芝省吾氏
前田:
カーボンニュートラルの特色は、スピード感にあると感じます。各社で開発中の技術を実用化するにはどれくらい時間がかかるのでしょうか。
重政:
水素に関しては、今ある技術でできることがたくさんあると考えます。
日本は水素技術に関する特許数が多く、先進的に取り組んでいることが色々あるからです。
一芝:
水素の発電利用は、2030年頃に開始される予定です。そのため、三菱重工は水素発電で利用する大型ガスタービンを2025年に商用化することを目標にしています。お客様が水素による火力発電を導入したいと思ったときに、すぐに利用できるようにしておくことが私たちの役目だと思います。そのためには、イギリスのように最初に水素発電を導入してくれた地域や企業と協力して、技術を磨いていくことが重要だと思います。
前田:
野球に例えると、中継ぎ。いつでも投げれるように肩を作っておく。そして「行け」と言われたら、すぐに水素発電が開始できるように準備しておくということですね。JERAはどうですか。
福島:
洋上風力発電は先発を担う気満々です。ですが、なかなか導入が拡大していないという課題があります。国の公募によって選ばれた開発事業者は、入札から8年以内に運転開始すればよいというルールがあるためです。環境影響評価の手続きや設計の見直し、系統の確保・接続を事業者がやらなくてはならず時間がかかるのです。
一方、欧州では政府主導で環境影響評価や系統接続などを行います。そのため、入札が終わってからすぐに洋上風力の建設を始められる体制が整っています。欧州のやり方では、入札までの準備に時間がかかりますが、日本よりも早く運転開始ができると思います。
前田:
政府との対話も重要になってきますね。
高須:
今ある技術から導入していくことが大切だと思います。フィルム型ペロブスカイト太陽電池の発電効率は理論上、約30%になると言われています。まだ30%は達成できていませんし、従来の太陽電池と比べると性能やコストで劣っています。それでも使いたいと言ってくださるお客様に提供していきたいと考えています。
フィルム型ペロブスカイト太陽電池は、デザインに特徴があります。プレリリースしたときに、フィルム状で、とても薄く軽いという点で大きな反響を呼びました。デザインによって認知を高め、導入したいと思ってくださる方を増やすことができると感じました。
再エネの普及拡大には、コストダウンが欠かせません。各企業はコストを抑えるためにどんな工夫をしているのでしょうか。
福島暁光氏
前田:
安くて、質の良いものを提供することが求められていると思います。コストを抑えるための取り組みを教えてください。
重政:
コストを下げるためには供給側の工夫はもちろん、需要側の行動も肝心です。
水素は利用が拡大し、需要が高まることによって、価格が低くなっていきます。ですが、(最初は)価格が高いためになかなか使われないというジレンマがあります。そのため、私たちが主体的に地球に良いものを選んでいくことが大切だと思います。
福島:
肝心なのは「競争」だと思います。公正なルールのもとに価格競争力を高めることが必要です。そうすれば、価格が安い方が有利になるので、コストを抑えるように努力するようになると思います。
洋上風力発電の入札で選ばれる基準は価格と事業可能性の2点です。これまでは、事業可能性を高めようと環境影響評価や地盤調査をコストをかけて行う企業が多かった。その分、電気料金が高くなってしまうわけです。これからは、価格も考慮に入れることが必要です。
また、洋上風力に必要な部品やメンテナンスを日本で調達できるようになればコストが下がります。
一芝:
まず既存のインフラを活用することによって、コストを抑えます。火力発電所の燃料を水素に変えるときに、天然ガスの火力発電所を改造して使います。新しく水素の火力発電所を建てるわけではありません。改造範囲をできるだけ小さくすることによって投資コストを下げ、電力価格を抑えることができます。
次も技術的な話です。水素は海外から輸入し、液化したり、アンモニアやメチルシクロヘキサンなどの水素化合物にしたりして運びます。発電利用する際には水素に戻しますが、純度の高い水素への転換にはコストがかかってしまいます。ですので、純度が高くなくても発電できるガスタービンを開発しています。
最後に、需要の創出に貢献します。水素は生産量が増えれば価格が下がります。三菱重工の水素ガスタービン1つで水素自動車約200万台分の水素を使います。これにより、大きな水素の需要を創出することができ、単価を抑えることができます。
2050年、どんな社会やビジネスモデルが成り立っているのでしょうか。理想の社会やビジネスモデルについて語りました。
高須勲氏
前田:
開発中の技術を使って、どういった社会やビジネスモデルを構築していきたいですか。
高須:
継続的に利益を生み出すビジネスモデルです。
啓蒙活動によって環境問題への意識を高め、太陽電池の購入を促していくことは難しいです。ですから、建物に太陽電池を最初から設置し、無意識に使用している状態を作ることが大切になります。そして、(消費者の利益を保ちながら)定期的なメンテナンスなどで継続的に収益が得られるビジネスモデルを構築していきたいですね。
前田:
消費者のライフスタイルに溶け込ませるということですね。3年前に建てた家の増築を検討しているのですが、3年たっただけでもハウスメーカーから提案される内容が全く違うんですよね。太陽光パネルを設置するのが当たり前になっている。そうなると消費者側の意識も変わる気がします。
一芝:
色々な国や地域が新エネルギーを導入したいと思ったときに、最適なソリューションを提供できるようにしておくことが、三菱重工に求められていること。例えば、水素や地熱発電です。将来的には、どんな需要にも応えられるようになっておきたいですね。
前田:
再エネで作った電力を「地産地消」する取り組みが広がっています。地域の特性に合った発電方法を提供することは大切ですよね。
福島:
自然条件によって発電量にばらつきがある洋上風力発電。この欠点を、水素が燃料の火力発電で補いながら、電力の安定供給をします。また、先ほど「競争が大事」という話をしましたが、「共創」も大切にし、よりよい社会を作っていきたいです。
前田:
JERAと三菱重工そして東芝が連携したプロジェクトがあったら面白いなと思いますね。お三方の話を聞いて、重政さんはどうですか。
重政:
日本の最先端で研究されている方の話を聞けて、未来が楽しみです。
一芝さんの意見に共感します。エネルギーの選択肢を増やし、最適な発電方法を地域、家族、または個人が自ら選びとれるようにしたいです。それによりエネルギー自給率を向上させたいです。
前田:
需要側の行動変容が欠かせませんよね。YouTubeチャンネルで情報を発信し続ける理由の一つは、消費者が行動を変えるきっかけを作りたいからです。
会場でディスカッションを聞いていたGreen Innovator Academy一期生からも質問が出ました。
Green Innovator Academy1期生:
エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルのバランスが難しいと考えます。課題や解決策を伺いたいです。
前田:
欧州は、ウクライナ情勢もあってエネルギーの安定供給に苦戦していますね。安定供給といえばJERAのイメージがあります。福島さん、どうですか。
福島:
安定供給は私たちの会社の使命です。国内の電力の約3割を発電しているので、安定供給できなければ停電してしまうという思いで日々取り組んでいます。そのためには、再エネだけではなく火力も必要です。
高須:
なにより太陽光発電の導入を進めていきたいですね。太陽光発電の課題は、余剰電力が生まれてしまうところにあります。東芝は、余剰電力を水素や燃料、化学品に変換し有効活用することに取り組んでいます。
一芝:
一つの発電方法に頼っていては、安定供給を確保することはできません。やはり、様々な選択肢を用意しておくことが大切だと思います。
Green Innovator Academy1期生:
国内発電のメインを担っていた火力発電が、再エネの欠点を補完するようなサブの役割に変化していきますよね。火力発電に携わっている人々、地域の暮らしや経済に大きな影響があると思います。そういった面についてどう考えますか。
福島:
産業が変わるときには、どうしても影響を受ける地域や人々が出てしまいます。火力発電は、様々なところに与える影響が大きいと思いますので、地域、経済、環境を多面的に考慮しながらトランジションしていきたいです。
最後に感想です。
重政海都氏
重政:
このセッションやGreen Innovator Academyのプログラムを通して、本フォーラムのテーマである「世代やセクターを超えて共創する」ことを体験できました。普段関わることのない方々と対話をしながら、一緒に未来を描くことができ嬉しいです。「脱炭素社会の実現」という同じ目標を持つ仲間とともに、これからも頑張っていきたいです。
福島:
学ぶことがたくさんありました。皆さんと協力しながら、脱炭素に取り組んでいきたいと思います。
高須:
カーボンニュートラルに向けて、やれることから確実に実践に移します。
一芝:
産官学の連携がこれから重要になってくると思います。半年間のプログラムを通して得た「つながり」を大事にし、今後も脱炭素に向けて邁進していきたいと思います。
前田:
いい議論になりましたね。
脱炭素社会は、前例のない世界です。斬新で面白い脱炭素社会を作っていきましょう。
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