2022年12月17日に開催された「Green Innovator Forum」。2022年8月末より4か月にわたって開講された「Green Innovator Academy」第二期の集大成となるイベントです。2030年の未来を描き、グリーンイノベーションの更なる創発を目的として、5つのパネルディスカッションが実施されました。本レポートではこれらのうち「新しい都市のあり方」というテーマで行われたディスカッションを取り上げます。
※Green Innovator Forum 各パネルディスカッションは3/31までアーカイブ配信中です
都市のあり方は、気候変動や生物多様性の喪失といった世界的な環境問題に大きく関わっており、そのシステムそのものの転換が求められています。私たちの生活を維持しつつ、気候変動にも最適化した持続可能な都市システムの姿、そこに関わる人のあり方について対話します。
中裕樹 氏:森ビル株式会社タウンマネジメント事業部パークマネジメント推進部兼TMマーケティング・コミュニケーション部
大和則夫 氏:一般財団法人森記念財団 都市戦略研究所 主任研究員
一場鉄平 氏:株式会社ウェルカム 虎ノ門蒸留所 蒸溜家・マネージャー
上野萌々花 氏:慶應義塾大学総合政策学部2年/Green Innovator Academy 二期生
人や企業を惹きつける都市の“磁力”は、その都市が有する総合的な力によって生み出されるという考えに基づき作成された「世界の都市総合力ランキング(Global Power City Index,GPCI)」。
世界の主要都市の「総合力」を経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスの6分野で複眼的に評価し、順位付けしています。
本ランキングを作成する一般財団法人森記念財団の大和さんはこの結果を元に、東京がどのような都市であるのかを次のように分析します。
大和:
「2022年のランキングにおいて東京はロンドン、ニューヨークに次いで3位でした。評価対象の6分野のうちの一つ『環境』には9つの指標があり、その中で東京は『緑地の充実度』において他の都市と比べて遅れをとっています。実際に衛星写真を見てみると、ロンドンではグリーンベルト、ニューヨークでは郊外の野生動物保護区を中心に大規模な緑地が存在しますが、東京にそういった大きな緑地はありません。
ただ、『緑地の充実度』は衛生写真に写る緑色の面積で計測されているため、それと、私たちに実際に見えている緑地の量は異なります。
東京は世界の他の都市と比べて緑地面積こそ小さいですが、街中を歩いているときに視界に入ってくる緑の量は多いと思います。思い出の大きさは緑地面積と比例するものではなく、いかにして緑に触れる機会を増やすかが今後の都市開発の課題だと考えています。」
定量的に評価した都市の総合力を伸ばしていく一方で、都市のアイデンティティを生かして、『質』の高い都市空間を提供できるか。それこそが、都市がこれから追求していくべきことだと大和さんは言います。
一方で上野さんからは、「都市の中に自然が大切であることは感覚的に納得できるが、“なぜ自然が大事なのか”という問いに明確な答えを出すのが難しいと感じている。なぜ緑地面積を計測したり、緑地を増やそうとしたりしているのか疑問に感じた」という意見がありました。
それに対して大和さん、中さんは以下のように語りました。
大和:
「緑地面積を計測しているのは、まずは地球環境のため、そしてそこに住んでいる人の居住環境をよくするためです。ですから、緑地の量だけを評価するのではなく、そこで過ごす時間の質を高める必要があると考えています。
『緑』を軸にして東京にしかない時間と空間を創り上げていくことで、東京のアイデンティティを高めていくことができると思います」
中:
「東京で生まれ育った方にとって、自然と触れる機会は少ないと思います。
東京の中でも自然に触れること、地域性を感じることは必要であり、その面においてまだまだ変化できると思います。森ビルとしては、住民の方々と話しながら、再開発を通じて人が触れられる緑を増やしていきたいと考えています。」
ここまで「都市の中の自然」を軸に、世界の都市と比較した東京というマクロな視点から議論が進みました。一方で登壇者からは、東京のローカリティというミクロな視点からの都市づくりについても語られました。
大和:
「外国の方から見た東京の魅力としてよく挙げられることが二つあります。一つ目は大都市“圏”としての魅力があることです。ロンドンやニューヨークでは中心街から離れると治安が心配な場所が多いですが、東京は郊外に行っても比較的安全ですし、駅を中心に機能が整っています。
二つ目は、一括りに東京といってもその中に様々なエリアがあることです。浅草、下北沢、虎ノ門などそれぞれのエリアが持つローカリティをもっと高めていくことで東京としてのアイデンティティや磁力は高まっていくと思っています。」
「最近は単に経済的な利益を求めるだけではない、個性的なお店が増えてきているように感じます。
東京とはいえ、根本には自分たちの暮らしがあると思います。」
そう語るのは虎ノ門横丁のプロデュースを手掛け、自身も横丁内の蒸留所でジンを造る一場鉄平さんです。
一場:
「蒸留所を企画するとき、海外から訪れる人にとって何が一番楽しいかを考えました。『ジン』からイメージを派生させてロンドンの『パブ』のようにしようというアイデアもありましたが、日本のオリジナリティや生活に直結していることに重きを置いた結果、最終的には『居酒屋』という形にしました。」
「また、蒸留所ではチョコレートメーカーやアロマデザイナーさんとのコラボレーションも積極的に行っています。これも多様な人が集まる東京の良さだと思います。東京では人間関係が希薄だと言われがちですが、多様な人の影響を受けられる大都市ならではの複雑さや面白さがあると思います。」
ここまでの議論からは、より良い都市を作っていくためには、まずそこに住む人が誇りを持って関わろうと思えるような魅力的なまちを作ることや、共創を生み出す源となるローカルコミュニティが大切であることがわかりました。
中さんから一場さんに対して、虎ノ門横丁などのローカルコミュニティでは、環境面への配慮や脱炭素社会の実現に向けて何か取り組みが行われているのか、またそのためにライフスタイルを変えることは出来るのか、という質問がありました。
一場:
「虎ノ門横丁で環境に関する話が出ることはあまりありません。ただ、製造や食に携わる者として環境面への配慮や脱炭素について考えていくことは必要だと感じています。
ローカルなコミュニティに必要なことは、他人に対する寛容性、クリエイティビティ、そして“自分たちが変えていく”という主体性です。
本を読んで学んでいくだけでなく、六本木ヒルズの屋上で田植えをして自然を実感するように、自分たちが実際に手を動かすことで、脱炭素社会の実現に向けて何が出来るかを考えていきたいです。」
また一場さんは、虎ノ門蒸留所における食へのこだわりを通して、ローカルコミュニティをこれからも維持していくための工夫について語りました。
「虎ノ門蒸留所では”TOKYO LOCAL SPIRITS”というコンセプトのもとジンを造っています。ジンの原料を日本全国から仕入れていますが、できるだけ自然栽培、減農薬のものを仕入れています。これは、人の健康や食を取り巻く問題に積極的に向き合っている方にリスペクトを持っているためです。季節のジンを造る際は、一年の季節サイクルの中で時季の植物の最も香りがいい時期に自分たちでも作物を摘みに行くこともあります。例えば、奥多摩や青梅を含む東京各所で金木製を手摘みし、『東京のキンモクセイ』と名前を付けることで、自然を体感するだけでなく、ジンを通して体験を共有できると考えています。」
一場さんからは、脱炭素社会の実現に向けた考えだけでなく、虎ノ門蒸留所における食へのこだわりを通して、ローカルコミュニティをこれからも維持していくための工夫ついても語られました。
ディスカッションを踏まえて会場からは、
「本当に脱炭素社会の実現を願うのなら、エネルギー問題の観点からも、新しい建築物はつくらない方がいいと考えているが、それと相反するように緑地化を目指した建築物の開発が進んでいる。これからの新しい緑地化の方法について考えていること、脱炭素社会を目指すうえで都市の変革に関して考えていることを教えてほしい。」
という質問がありました。
これに対して中さん、大和さんは以下のように自身の考えを述べました。
中:
「脱炭素という分野で都市がどのような役割を果たせるか、今後の開発で何をすべきなのかはそこに住む地域の人も含めた議論がまだまだ必要だと考えています。
再開発を行う理由として、今までは防災面が大きな要因でしたが、今後はエネルギーの側面からも考えていくべきだと感じています。」
大和:
「都市の未来を考えるとき、全ての都市に当てはまる一般解を考えがちですが、都市には個別解しかないと思います。
例えば、東京においては防災面を考える必要があります。新しい建築物をつくらないことは脱炭素という観点においては良いことかもしれませんが、現在の建築物は防災面での課題を持っている場合も多いです。多角的に意見を聞いたうえで都市開発を進めていく必要があります。」
地球環境に考慮しながらも、世界中から訪れた人に魅力的と思ってもらえる都市でありつつ、そこに住む人の生活の質を高めていく都市をつくっていくためにはその土地柄を生かした開発が必要である。そのような想いが感じられるセッションでした。
編集後記
「都市の新しいあり方をつくる」と聞くと、大規模な開発が必要で自分とはかけ離れた分野のように感じていましたが、本ディスカッションを通じて、地域での繋がりから始まる小さなコミュニティも都市づくりの一つとして捉えることが出来るのだなと思いました。
また、社会の変革のために都市の再開発などマクロな面での取り組みも必要不可欠ですが、グローバル化が進んでいるからこそ、目の前のローカルでリアルな繋がりを大切にしていくことが様々な側面からの持続可能な社会の実現に繋がるのだと考えることができる時間でした。
Green Innovator Academy 1期生 中村文香
「IDEAS FOR GOOD」(https://ideasforgood.jp/)
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※Green Innovator Forum 各パネルディスカッションは3/31までアーカイブ配信中です
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・都市がいつまでも魅力的であり続けるために。脱炭素社会と私たちのためのまちづくり
・脱炭素のジレンマをどう乗り越える? 最前線の挑戦者と考えるエネルギー転換の舵取り
・持続可能な農業のリアルとは?セクターを超えて考える、これからの食と農
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